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第十九便 心の中まで読まないでっ!

七つ道具(七つでは足りない)一覧

平ロープ ロープではくいこんでしまうような荷物の固定に使います。

 ドゥルン!


 エンジンがかかる。

 全身に血液がめぐる。


 実際には冷却水(クーラント)だけど。


「おはよう、フッフ」

 お兄ちゃんの手がハンドルを撫でるのを感じる。

「おはよう、お兄ちゃん」

 お兄ちゃんの声に安心しながらオレも答える。

「よく眠れた?」

「あ、うん。寝たのは寝たんだけどね」


 ドライブレコーダーが起動して、視界が広がる。

 厩に朝日が差し込んでいる。


 ……けど。


 数人の衛兵たちがオレの周りを囲んでいた。

 不安そうな顔で。


「あ」


 その真ん中には、昨日の偉そうな奴。

 確実に笑ってはいない。


「まあ、今日も通訳頼むよ」

 お兄ちゃんが窓を開けると、ドアハンドルに手をかけた。

「大丈夫?」

「うーん、大丈夫かどうかは知らないけど、これだけの人がいたら逃げようもないしね」

 お兄ちゃんはそう言って車を降りた。


「えーと、おはようございます」


 お兄ちゃんが軽く会釈する。

 オレも通訳する。


 と、偉そうな奴が一歩前に出た。


『昨夜は大変失礼しました、荷車の騎士殿』


 そう言いながら頭を下げる。


『そして、貴殿のお力により、この国の危機が救われたこと、心より感謝します』


 あれ? わかってるじゃん。

 でも、とか言って安心させて、闇討ちするつもりだったりして。


「通訳してくれるのはいいけど、失礼なこと考えてない? フッフ」


 勘が冴えてるね、お兄ちゃん。


『西の国との戦争に多くが従事し、城を守るものは僅か。更に流行り病で、我々皆気が立っておりました』

『まあ、気にするなよ』

「フッフ、やり直し」

『??』

『気にしないで下さい。こちらこそ驚かせてしまいすみません』

「そうそう」


 何でわかるの、お兄ちゃん。

「何となくフッフが考えてることが解るようになってきたよ」


 心の中まで読まないでっ!

 読まれるとまずいこともちょっと、じゃなくてたくさんあるから。


『色々聞きたいことはありますが、まずは朝食を。席が準備できておりますので、ご案内いたします』

「ありがとうございます」


 お兄ちゃんはまた頭を下げた。

 この、「頭を下げる」ってのは、「礼を表す」という意味ではこの世界でも共通らしい。

 あ、ちなみに口調は、日本語程のあれこれはないみたい。

 一応敬語的な表現はあるみたいだけど、後はほとんどオレのアレンジ。

 偉そうなおっさん(王様)には、王様っぽい口調。

 グリシーヌには、姫っぽい口調。

 この衛兵(多分)のおっさんには、軍人ぽい口調。

 

 実際にはそこまで大きな差異はないみたいだけど、オレだって翻訳機能だよりだし、文法とかがわかってるわけじゃないしね。

 まあ、その場の雰囲気で。


 そして、できればお兄ちゃんは、誰に対しても偉そうに喋ってほしいんだけど。

 お兄ちゃんが頭を下げるとこなんてあんまり見たくないし。

 でも、「頭を下げるのは慣れてるから」とか平気で言っちゃう人だし。客商売だから仕方ないけど。

 それに、変なとこで勘が良くて。

 まして、頭を下げたり、姿勢を正しくしたりして喋ってるのに偉そうな口調じゃ、かえっておかしいしね。


 ほら、また頭を下げた。

「お気遣いすみません。でも、まだいろいろと用がありますので」

 

 そう言ってオレを見る。

 やっぱお兄ちゃんはオレを見捨てない。


「そもそも、俺、フッフがいないと言葉もわかりませんし」


 まあ、そうだよ。

 オレはそこを強調して通訳した。

 おっさんはオレをじっと見つめ、呟いた。


『異国の言葉を通訳する魔獣とは、まことめずらしいものです』

「まあ、オレはフッフがいないと何もできないってことですよ」


 通訳、というよりのろけまくった。

 偉そうなおっさんは少し難しい顔をしていたけど、『わかりました』と言うと、部下(多分)を連れて歩き出した。

『あ、ところで』

 偉そうな奴が振り返った。

『グリシーヌ姫の馬車を引いていた馬は、今朝がた城壁の外まで戻ってきているのを見つけ、保護しております。これも荷車の騎士殿のおかげです』

「あ、とんでもないです」

 お兄ちゃんが答え、オレたちのいる厩を見回した。

「あれ、もしかしてこれ、その馬たちの家ですか?」

『ええ。でも、今は別の厩につないでいますので、お気になさらず』

「何かすみません」

『それでは』

 

 偉そうな奴(意外にいい奴だったけど)は去って行った。

 どうせなら、偉そうなまま突っ張りとおしたところをお兄ちゃんにコテンパンにしてほしかったところだけど。

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