第十三便 魔剣だなんて言わないでっ!
七つ道具(七つでは足りない)
雑巾 きれいめなものとそうでもないもの、両方便利です。
「ねえ、フッフ。錠を壊してもいいか訊いて」
お兄ちゃんがルーフキャリアの道具箱に手を伸ばしながら言った。
オレはしびれた手で、悔しそうに鍵を見つめている奴に声をかける。
『おい、そこの偉そうなあんた。その錠、壊してもいいんだよね?』
『何だと、魔獣ごときが』
偉そうな奴は剣をこっちに向けた。
でも手がプルプルしてる。
『グリシーヌ姫を食い殺しかけた貴様など、私が真っ二つに切り裂いてくれる』
『はん! やれるもんならやってみな』
「フッフ!」
何言ってるかわからないはずなのに、お兄ちゃんに怒られた。
偉そうな奴のせいだ。
それか、野良メスかおっさんのせい。
とにかくオレは悪くないよね、お兄ちゃん?
「いや、今のはフッフが悪い」
ひとの(車の)心を読まないでっ!
「まあ、それはともかく」
お兄ちゃんは道具箱を閉めると、薬草の箱の前に向かった。
「剣で切ろうとした人もいたんだから、壊してもいい、と言う方向で」
その右手には、充電式ディスクグラインダー。
左手にはほうき。
「すみません、下がってください」
さすがに通じないのはわかってるから、おっさんや野良メス、そして他の人たちに手ぶりも併せて言う。
皆が少し離れると、お兄ちゃんがほうきを地面に置き、グラインダーのスイッチを入れた。
唸り声をあげてディスクが回転する。
それだけで周りがひそひそ言い始める。
『何だ? あの咆哮は?』
『魔剣か?』
お兄ちゃんはグラインダーを両手で持つと、錠の横棒に当てた。
火花が飛ぶ。
まわりがざわつく。
『ほ、炎の剣《つるぎ》?』
野良メスが呟く。
『まさか、伝説の炎の剣とは』
おっさんも目を見開く。
十秒くらいで錠の横棒が切れた。
『本当に、炎の剣、なのか?』
偉そうな奴が声を絞り出す。
『炎の剣だ』
『本当にあったのか?』
『魔獣も従えて、変な格好で』
『予定より四半日も速く着いたし、どんな魔獣だ』
『そんな魔獣を従えて、炎の剣を持った男。いったい何者なんだ?』
『まさか、この男こそが伝説の勇者では』
他の連中もひそひそと言っている。
ふふん(ハート)。
お前ら、お兄ちゃんの偉大さを思い知るがいい!
そんなお兄ちゃんは、錠を切断し終わると箱の周りに飛散した鉄粉をほうきではき始めた。
お、お兄ちゃん……。
炎の剣を持った伝説の勇者なのに……。