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第一便 異世界に送らないでっ!

七つ道具(七つでは足りない)

軍手 たいていゴムのすべり止め付を使用します。以前は緑の厚めのものをよく使用しましたが、最近は赤く、少し薄いタイプを使っています。


ふと気づくと、オレは闇に包まれていた。


どこからか声が聴こえる。

「目覚めなさい、迷い子よ」


「え、ええと」

「早く目覚めないと、永久に眠らせますよ?」

「目覚めた!目覚めました!」

 オレは慌てて叫んだ。

「そうですか、それは良かった」

 こころなし残念そうに聴こえる。

「で、いきなり何なの?あんた誰?」

「やっぱり、永久に眠らせた方が」

「ギャー、あ、あなたはどなた様ですか?!」

「ちゃんと反省できる子は好きですよ」


 やっぱり声が怖いので、ここは殊勝に。


「あ、ありがとうございます」

「あなたの素直さに免じて答えましょう。私は、〇〇の女神です」


 〇〇が聞き取れなかったが、自分のことを女神と言うなんて……。

「何ですか?」

「何でもありません! 何でもないけど、何にも見えないし」

「こちらもあなたを見ているわけではありませんよ。あなたの『意識』に直接語り掛けているだけで」

「意識、ですか?」


 いろいろ疑問はあるが、あまり訊いても又怒り出しそうだし。

「察しがいいですね」


 女神やばい。


「それはともかく、あなたは間違って死んでしまいました」

「いや、死んでしまったって」

「事故でトラックにはねられました」

「は?」

「私のとっさな的確な判断で、あなたの存在した空間そのものを一時的にこちらに転移させました」


 さりげなく自分アゲ。


「とはいえ、これはこちらのミスですし、このままここにいさせるわけにもいきませんし、似たような世界に返すことにしましょう」

「え?元の世界じゃないの、じゃなくてないんですか?」


 そう訊きながら湧き上がる違和感。

 「元の世界」って、どんなんだっけ?

 ものすごく漠然とした記憶しかない。

 オレはそこで、えーと……。


 オレが必死に記録を探る間も、女神が勝手に話を進める。


「二の××乗ある世界を一つ一つ調べて、あなたのいた元の世界を探す、なんて面倒くさ、ではなくて些末なことを、〇〇の女神である私にさせようと言うのですか?」


 言った、今面倒くさいって言った!


 でも、真っ向から反論すると、この自称女神は絶対やばいし。

「そ、そう言ったって、ほら、一日の長さだっていろいろとあるだろうし」

 とっさに思うことを言う。

「元の世界での自転速度と公転速度が同程度の世界になるように努力しましょう。単位がどうかは別として」

「き、気温は?」

「高すぎず、低すぎない場所になるよう配慮しましょう」

「そ、そうだ!」

 大事なことに気付いた。

「さ、酸素とかは?」

「大気の組成が同じ世界はたくさんありますから、それも同じにしておきましょう」

「た、食べ物とかは?」

「材料は豊富な世界にしましょう。後は自分で工夫してください」

「工夫って、ちょっと難しくない?」

「頑張ってください」

「うう」

「それでは、よろしいですね?」

「あ、そ、そうだ!」

 オレは慌てて叫ぶ。

「こ、言葉!言葉はどうするんですか?それに文字も」

「あなたに翻訳能力を与えましょう」

「そ、そこまでできるんなら、元の世界に戻せそうだけど。本当に何とかの女神」

 オレはそう言いかけてから口をつぐんだ。

「まあ、そうですね。あなたがそこまで元の世界に戻りたい、というなら、時間は少しかかりますが」

「待った!お待ちください!」

「何ですか?」

「あ、あの、翻訳機能がついたってことは、オレ、喋れるんですか?」

「当然です」

「会話もできますか?」

「できなければ翻訳能力の意味がないでしょう」

「人に言葉を教えたりすることもできますか?」

「それが翻訳能力の二次的な役割です」

「目も見えますか?」

「文字を読むには必要でしょう」

「知らないことを学んだりもできますか?」

「記憶容量の許す限りは」

「何か新しいことを考えたり、創ったりすることは?」

「あなたに可能な範囲のことなら可能です」

「つまりオレは、このまま、自分の意識を保ったままそこに行けるってことですか?」

「もちろんです。さあ、質問の時間は終わり。それでは、良い旅を」


 目の前が暗転し始める。


「そ、それから、一番大事なことですが!」


「道中お気をつけて」


 声が遠のいていく。


「オレはオレだけでその世界に行くんですか?」

「さっきも言ったように、あなたと、その周りの一定の範囲は全て転移させましたよ」

「じゃあ、オレと一緒にいた人も、同じ世界に?」

「何を言っているんです。あなたがトラックにひかれた時は、一人でしたよ」

「オレ、ひいてないよ!」

「はい?」


 思い出した!

 記録を見つけた!


 オレは深夜の県道、片側一車線の直線道路を東から西に走っていた。

 対向車線のタンクローリーの前に、突然飛び出した若い男。



「ひいてない?ひかれていない、ではなく?」


タンクローリーが右に急ハンドルを切って、更に逆ハン。

男はかわしたけど、トレーラーがこちら側、対向車線にジャックナイフ。

目の前にタンクが迫って来て、左側に避けようとして。


「あの時あなたは、道路の南側の崖にはね飛ばされて」

「男はオレからしたら右側、道路の北側でこけてただけ! タンクローリーもオレもぶつかってないし!」


 トレーラーのバンパーがガードレールをひしゃげさせながら南側の崖に。


「タンクを避けようとしたオレたちは、南側の崖から」


十二メートルトレーラに道を塞がれたら、逃げる場所ないし。

 

「そ、それでは、私は、トラックにはねられた少年ではなく、トラックのドライバーを、トラックごと?」


 トラックって言っても、向こうはタンクローリー、こっちは軽トラだけど。


「キャー、間違い!さらに間違い!やり直し!」


 むなしい声が遠ざかる。


「戻って来て! お願い、戻って来て!」


 そんなこと言ったって、真っ暗でそもそも今どこなのかもわからないし。


「イヤーッ。査定に響くーっ!」


 査定って。

 随分俗物的な女神だね。

 

 まあ、でも、わかるよ。

 そりゃ、間違いだろうね。


 そもそも、オレ、人間じゃなくて、軽トラック。

 営業ナンバーの赤帽だもん。

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