第六十二話 カズキ召喚の真相
トーナメント本戦の初戦、ラクトVSコエンの激闘の結果、闘技場の中央に巨大なクレーターが出現した。
その復旧のために、学院長であるジュリアンが自ら魔法を使って、一瞬でクレーターを土で埋める。
コエンとマイネは、その様子を物陰から共に見守っていた。ちなみにだが、カズキはいない。ナンシーにねだられて、散歩に行ってしまったのだ。
「今のが古代魔法か。ラクトと私が全力で魔法をぶつけ、漸く出来た筈のクレーターが、こうもあっさりと修復されるとは・・・・・・。文字通り、桁が違うな」
カズキの古代魔法を目の当たりにしたコエンであったが、余りにも自然に魔法を使われたので、発動そのものを感知することが出来なかった。そこでリベンジにと、ジュリアンが魔法を使う様子を見に来たのだが、やはり、発動を感知する事は出来なかった。
「そうですね。当たり前のことですが、壊すよりも作るほうが難しい。なのに、それを苦も無く、しかも実況席から動かずにやってのけた」
「・・・・・・思うんだが、別に、カズキ・スワを召喚しなくても、学院長がいれば邪神をどうにか出来たのではないか?」
コエンと同様の疑問を、マイネも昔抱いたことがある。具体的には、巨大化したワイバーンと戦った後、ジュリアンも古代魔法を使えると、カズキが教えてくれた時の事だ。
「そうですね。実際に、学院長の魔力は邪神を上回っていたと、カズキさんに聞いた事があります。ですが、学院長では邪神を再封印する事しか出来なかったでしょう」
「そうなのか?」
「はい。学院長本人がそう言っていたので間違いありません。それに、最近の事ですが、学院長でもどうにもならない事態が発生しました。もしかしたら、神はそれを見越して、カズキさんを召喚させたのかもしれませんね」
マイネがそう考えるのも無理はないが、真相は全く違った。
カズキは、エルザやフローネが信仰する、女神レミアの能力によって探し出された。
初代勇者とは全く血縁関係はないが、直接攻撃によってのみ、邪神を滅ぼすことが出来る。
そういう存在を苦心して探し出した女神は、フローネに邪神を倒すことが出来る戦士が見つかったと神託を下し、カズキを召喚させた。
フローネに力を貸し、カズキを召喚させる事に成功した女神は、地上に干渉する力を一時的に失う。唯一出来たのは、地上を見守る事だけだった。
誤算が起きたのは、カズキが召喚されてから二ヶ月程経ったある日の事。ソフィアの愛猫、エリーの出産の時だった。
エリーの出産に立ち会ったカズキは、生まれた仔猫の内の一匹、ナンシーの名前が見えてしまった。
動物の名前が見えるのは、魔法使いの証。当然、カズキには魔法使いとしての活躍を期待された。
剣術の方にも天才的な才能を示したが、それを上回るクリスの存在、神聖魔法の使い手エルザ、そして、魔法に卓越した才能を持つカズキと、上手い事バランスの取れたパーティになってしまった事もあり、カズキは武器を持たずに邪神との戦いに臨む。
結果は邪神を倒すことに成功したが、そこに女神が思い描いていた結末はない。
全ては、偶然の結果である。
「邪神を超える存在がいたと? 俄かには信じられん話だ。だが、お前が言うからにはそうなのだろうな」
憑き物が落ちたコエンは、マイネの言葉を疑わなかった。そして、当然の疑問を口にする。
「邪神を超える存在とは何だ? そいつは何処に現れた?」
「現れたのは、『時空の歪み』のある場所。そして、邪神を超える存在とは、古代魔法王国時代に現れ猛威を振るった・・・・・・」
そこまで話したところで、マイネの体が震えた。思い出しただけで、恐怖に体を支配されたのだ。
「まさか!? 悪魔が現れたとでも言うのか!」
「・・・・・・その通りです。私は偶然、ソレと遭遇しました」
「・・・・・・良く無事だったな。いや、その場にカズキ・スワがいたのなら、魔法で倒して終わりか」
コエンの言葉に、しかしマイネは首を振った。
「悪魔に魔法は効かなかったんです。それが、古代魔法王国で悪魔が猛威を振るった理由です」
「何だと! では、どうやって悪魔を倒したというのだ!? 時間を稼いでいる間に、剣帝を呼び出したのか?」
コエンに思いつくのは、それ位しかなかった。まさか、魔法使いであるカズキが、クリスに迫る剣の使い手だとは、思いも寄らないらしい。
「いいえ、カズキさんが一人で倒しました。最初から説明すると・・・・・・」
そう言って、その時の状況を詳しく語るマイネ。黙って聞いていたコエンの顔からは、話が最後になる頃には表情が抜け落ちていた。
「・・・・・・マジ?」
余りの衝撃に、コエンの言葉使いが崩壊した。
「マジです」
コエンの気持ちが良くわかるマイネも、無表情で頷く。
「・・・・・・そんな相手に勝負を持ちかけて、良くあれだけで済んだな、私は」
「運が良かったのでしょうね。幸い、ナンシーには触れませんでしたから」
「ナンシー? もしかして、カズキ・スワが抱いていた猫の事か?」
「その通りです。まあ、ナンシーに限らず、全ての猫に言える事ですが」
「・・・・・・そうか」
チOオちゅーるの話をマイネから聞いていた(何故か、悪魔の話の中に入っていたのだ)コエンは、ナンシーを馬鹿にしなくて良かったと、決闘の前日の自分に、心の中で拍手を送った。
コエンとマイネが、ジュリアンが魔法を使うところを見物しようと戻って来た頃、タゴサクは先程の戦いを思い出して興奮していた。
「すっげえ戦いだったべ。コエンって人も凄かったけんど、ラクトって人はそれ以上だ。・・・・・・間違いねえ、ラクトっちゅう人が、召喚された魔法使いだ」
タゴサクの勘違いがさらに加速したその時、クリスからのアナウンスが響き渡った。
「え~、これよりジュリアン学院長がクレーターの修復を行います。終わりました」
「「「ええっ!?」」」
「「「早っ!?」」」
クリスのアナウンスの途中で、簡単に修復を済ませたジュリアンの魔法を見て、観客席から驚きの声が上がった。
「次の試合は通常戦闘の一回戦です。出場選手は、速やかに中央へとお進みください」
観客の驚きを全く意に介さず、クリスは淡々と進行する。
「よし! 次の次の試合がおらの番だ。トーナメントを勝ち上がって、仲間に顔を覚えて貰わねえと」
一瞬でクレーターが治った事を全く気にもせず、タゴサクは柔軟を始めた。世界を救うという使命がある彼は、細かい事を気にしないのだ。
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