第四十二話 シーサーペント殲滅作戦
アーネストの操縦で突撃した船は、海中に潜ったシーサーペントにあっさり回避された。
勢い込んで突撃した割には、酷く中途半端な結果である。
自分の思い通りの結果が得られなかったショックで、アーネストは俯いて沈黙。マジックアイテムにより制御されている船も、同様に沈黙した。
「「「「・・・・・・」」」」
他の乗組員も、あまりな結果に言葉を出せずにいる。
いや、よく見ると皆、肩を震わせている。笑いを堪えているのだ。
妙な沈黙がその場を支配し始めた所で、突撃を躱したシーサーペントがヒョッコリと姿を現した。
そして、アーネストを嘲笑うかのように、船の周りをゆっくりと泳ぎ始める。
「っ!」
その様子を見ていた一同の我慢は限界に達した。一人が声を漏らしたのを切欠に、全員が遠慮なく笑い声をあげ始める。
「ぎゃはははは!そりゃあそうだ!シーサーペントだって馬鹿じゃないんだから、突撃されたら躱すよな!」
「・・・そっ、そうだな。ア、アーネスト、こ、今回は運が悪かったと思って・・・、ぷっ!」
クリスが容赦なく兄の失態を笑う。ジュリアンはそれでも弟をフォローしようとしたが、込み上げる笑いに耐えられず、その先の言葉を口にする事はなかった。
そんな中、異変にいち早く気付いたのはカズキである。
ピタリと笑うのを止めると、ジュリアンとクリスを除いた全員を守るかのように、大規模な魔法障壁を展開したのだ。
そんなカズキの様子を見たクリスとジュリアン以外のメンバーも、笑うのを止めて緊張の面持ちでシーサーペントの動きに注視する。
だが、カズキが警戒していたのはシーサーペントではない。
カズキの視線の先にいたのは、俯いて肩を震わせているアーネストであった。
彼は不意に顔を上げると、シーサーペントを見据えて一言呟いた。
「・・・くたばれ」
その言葉と同時に、急激に気温が下がる。
直後、アーネストからシーサーペントへ向けて、猛烈な吹雪が放たれた。中間にはクリスがいたがお構いなしである。
吹雪が過ぎ去ると、氷の彫像が海の上にぷっかりと浮かんでいた。
アーネストが、神話級と呼ばれる古代魔法、【コキュートス】を使ったのである。
「っぶねえ。兄貴!殺す気か!」
あちこちに霜が付いたクリスが、アーネストに向かって文句を言った。
彼以外はカズキがあらかじめ張った障壁で、ジュリアンも気付いていたのか、危なげなく防御魔法を使って防いでいる。
「ちっ!」
アーネストはクリスの抗議に耳を傾けず、舌打ちをして銛(オリハルコン製は一本しかないので、鉄製)を持ち上げる。
そして、凍り付いたシーサーペントめがけて、全力で投擲した。射線上にクリスがいたが、気にした様子もない。
放たれた銛はクリスを掠め(避けなかったら直撃)、シーサーペントに命中。それにより、シーサーペントだった物は、甲高い音を立てて砕け散った。
「『真・アーネスト号』の初陣を汚しやがって」
突撃を回避されたのが悔しかったアーネストは、そう言って漸く怒りを収めた。
どうやら、皆に笑われていた事には気付いていないらしい。クリスに向かって攻撃しているように見えたのも、クリスが偶々アーネストとシーサーペントの間にいた事が原因の、単なる事故であるらしかった。・・・多分。
「ふむ、水の加護を持っているのは伊達ではないな。余波だけでこの威力とは」
ジュリアンの独り言に、ソフィアが反応した。
「ホントね。直撃コースだったら私の魔法では防げないわ。貴方ならどう?」
「普通に防ごうとしたら無理でしょうね。アレなら可能でしょうが」
「そうね。最近漸く形になってきた、魔法の同時使用なら防げそうだけど・・・、何でクリスは魔法を使えないのに、あの程度で済んでいるのかしら?我が息子ながら、意味が分からないわ」
「あいつもカズキと同様、人間を止めていますから。きっと、我々の理解できない方法で魔法を防いだのでしょう」
ソフィアとジュリアンが好き勝手な事を言っていると、船が動き出した。
新たな獲物を求めて動き出した『真・アーネスト号』(酷い名前である)であったが、仲間が瞬殺された事を警戒したのか、それとも別な理由か、新たなシーサーペントには遭遇しなかった。
「全然遭遇しないな。いっそ、魔法で探すか?」
一時間が経った頃、リーザで買ったソファ(観光中にナンシーが気に入ったので、即購入)を用意しながら、カズキがそんな事を言い出した。
猫たちが食事を終え、一斉に昼寝をしてしまったので、暇になったのである。
「その必要はない!」
やけに力強い言葉で返答したのは、当然のようにアーネストだった。
「何故なら、その為の機能も、この船には付いているのだからな!」
「・・・じゃあ、最初から使えよ」
船に備え付けのシャワーで霜を落としてきたクリスが言うが、アーネストは聞こえないふりをした(今の今まで忘れていたのだ)。
「では、『真・アーネスト号レーダー』起動!」
そして、掛け声と共に、手元のボタンを押す。
だが、傍目には変わった事は無かった。
「・・・何も起きないね?」
失敗したのだろうかと思ったカリムは、ナンシーを抱いてソファーに寝そべっているカズキに聞いてみた。
「んー?あの魔法は術者を中心に周りの生物を感知するんだけど、感知できるのは術者本人だけだからな。ラクトが期待するような、水面に映像が映るとか、そんな効果はないぞ?」
「・・・そうなんだ。期待してたのに拍子抜けだな」
ラクトの言葉に、マイネとフローネも頷いた。
「気になるなら、カリムと母さんみたいに試してくれば?」
その言葉にアーネストの方へ振り向くと、そこにはカリムとリディアがいた。
二人共ボタンを押したのか、不思議そうな顔で、辺りを見回している。
「おっ!あっちに一匹発見!」
「あら本当。そこから少し離れた所には二匹いるわね。なかなか面白いのね、魔法って」
何やら楽しそうな二人を見て、三人もそちらへ移動する。
そして、同じようにボタンを押して、感嘆の声を上げた。
「おおっ!これが古代魔法!」
「遠くにいる生き物の場所が分かるなんて・・・、これがカズキさんが普段見ている世界なんですね」
「凄いです!この魔法があれば、ロック鳥とか、ワイバーンを探せますね!」
フローネだけは、関心の方向性が明後日を向いていたが。
「それでどうするの?まずは一匹でいる方から狙う?」
自前で魔法を使っているソフィアが、船長であるアーネストに声を掛ける。
「ああ。まずは一匹捕獲して、味見をしなくちゃならねえからな」
「・・・さっきも一匹だったんだけどな」
殺されかけたからか、クリスはしつこかった。
だが、アーネストはまたも聞こえないふりをする。
「野郎ども!これから一匹でいる方を捕獲する!しっかり摑まってろよぉ!」
一匹目のシーサーペントに突撃を躱された事を忘れ、またも高速で船を動かすアーネスト。
このままだと、さっきの状況の再現になりそうだった。
「・・・カズキ、頼む」
「分かった」
ジュリアンの要請に頷いたカズキが、シーサーペントに近づいた所で魔法を掛ける。
すると、海に潜り込んで突撃を回避しようとしていたシーサーペントが、水上で暴れ始めた。
水上歩行の魔法を掛けられたので、潜るに潜れなくなったのである。
そこに、アーネストが操る船が突進。今度は狙い違わず、シーサーペントの巨体を衝角で貫いた。
「よし!」
思い通りの結果を得られた事に、アーネストが満足気な表情をする。
そして、カズキに作ってもらった銛(オリハルコン製)を片手に意気揚々と近付き、衝角に縫い留められて踠くシーサーペントに止めを刺した。
「さて、こいつを解体して味見と行こうじゃねえか」
アーネストはそう言って、シーサーペントを一人で甲板に引き上げた。
「「ええっ!?」」
「どうした?」
驚きの声を上げたラクトとマイネを見て、カズキが不思議そうな顔をする。
「・・・僕の気のせいかな?今、殿下が軽々とシーサペントを甲板に引き上げてたように見えたんだけど・・・」
「マジックアイテムでは?いくら何でも、あの巨体を一人でどうにかする事が出来るとは思えませんし」
「成程。この船は殿下が一人で運用できるように作った物だから、そういう魔法も必要ですね。納得しました」
二人が自分達なりの結論を出した所で、カズキからの訂正が入った。
「アーネストはマジックアイテムを使ってないぞ?」
「「・・・え?じゃあクリスさんみたいに魔力を操ってるの(ですか)?」」
「それも違う。単純に力で引き上げたんだ」
「「ハハハ、そんな馬鹿な」」
二人は乾いた笑い声を上げて否定した。
それもそのはず、全長三十メートルのシーサーペントの体重は、少なく見積もっても五十トン以上。気軽に動かせる物ではないのだ。
「やっぱりそういう反応になるよなぁ」
腕を組んでしみじみと頷くカズキ。彼がアーネストの馬鹿力を目の当たりにしたのは、体長十メートルのクジラを肩に担いで運んでいた時であった。
その時一緒にいたエルザが、驚くカズキに魔法の言葉を使った事で、妙に納得してしまったのを今でも覚えている。その言葉とは・・・。
「なぁ二人共。アーネストはクリスの兄貴だぞ?」
「「・・・なるほど」」
エルザに言われた言葉をカズキがそのまま伝えると、二人共納得したようだった。
それほどランスリードの王族は異常なのだという認識が、二人の間に出来上がっているのだ。
そんな会話をよそに、アーネストはシーサーペントを魔法で手際よく解体し、早くも味見にとりかかろうとしていた。
「まずは刺身からだな」
そう言って、シーサーペントの切り身を躊躇いなく口にしたアーネストだったが、次の瞬間には海に向かって吐き出していた。
「ぺっ!不味っ!なんだこの酷い味は!」
その言葉に、後に続こうとしていたフローネとカリムは、伸ばしていた手を引っ込めた。
「どんな味なんだ?」
興味を惹かれたのか、ジュリアンがそんな質問をする。
「澱んだ池の水と、油の塊を足したような味だ」
「・・・良く解らんが、不味いという事だけは分かった」
嫌そうな顔をして、ジュリアンが引き下がる。
だが、アーネストはまだ諦めていなかった。
「次は焼いてみよう」
そう言って、今度はぶつ切りにしたシーサーペントの肉を網の上で焼き始める。
さっきの刺身で懲りたのか、生焼けの部分がないように入念に火を通し、今度は恐る恐る端っこに噛り付く。そして、先程と同じように海に向かって吐き出した。
「ぺっ!これもダメか!なら次は・・・」
諦めずに次の調理法を試すアーネストであったが、結局、煮ても蒸しても燻しても同じ結果にしかならなかった。
「・・・やっぱり食えなかったか」
アーネストのチャレンジが全て失敗に終わった頃、カズキがボソッと呟く。
「食べられないってわかってたの?」
暇だったので釣り糸を垂れていたラクトが、カズキの呟きに反応した。
「ああ。猫達が一人も興味を示さなかったからな」
カズキに言われてラクトは思い出した。
猫達はシーサーペントが甲板に引き上げられた時の音で一瞬目を覚ましたが、その後は興味なさそうに昼寝に戻った事を。
「ワイバーンとかロック鳥の時は凄い反応するもんね。って事は、この船を造った意味が・・・」
「無くなった。まあ、違う海域で獲れる魚を定期的に運んで貰う事になったから、全くの無駄という訳でもないが。・・・ところでラクト、デカいのが掛かってるみたいだぞ?」
「・・・へ?うわぁ!」
カズキの言葉と同時に、猛烈な勢いで竿が引かれた。その余りの力に、ラクトは竿を手放してしまう。
その時にチラッと見えた姿は、先程アーネストが食べていた物に酷似していた。
「シーサーペントが掛かるとはなぁ。何を餌にしたんだ?」
「シーサーペントの切り身。どうせ食べられないだろうから、魚の餌にしようと思って。みんなも同じ事してるよ?」
どうやら、カズキとソフィアを除く全員が、思い思いの場所で釣り糸を垂れていたらしい。
アーネストに付き合うのが面倒になったのだろう。
「ホントだ。それでここに集まってきてるのか。移動する手間が省けたな」
話をしている間にも、続々と集まってくるシーサーペント。
魔法を使って調べてみると、知覚できる範囲にいるのが全て集まっているらしかった。
数は軽く百をこえている。
「さてと、最初の予定通り駆除を始めるか。こいつらがいると、海の幸が獲れないからな」
「そうだな。では、各自配置に付いてくれ。シーサーペントが姿を現したら適当に殲滅して欲しい」
カズキの言葉にジュリアンが頷き、皆に指示を出した。
それを受けて、古代魔法を使えない者達が、舷側に備え付けられた杖の元に向かう。
その杖にはボタンが付いていた。神話級の魔法を放つマジックアイテムである。
「このボタンを押せばいいのね?」
事前に説明を受けていたのか、リディアが躊躇いなくボタンを押す。
すると、リディアの頭上に直視できない程の強烈な光の玉が発生し、バチバチと音を立て始めた。
「【トール】、ですか?」
「ああ」
初めて見る魔法だったが、その特徴的な見た目から察したマイネが、カズキに確認を取る。
「・・・これが【トール】。確か、風と光の属性を持っていないと発動できない複合魔法だったよね?」
「・・・そうなのか?」
ラクトに聞かれたカズキが首を傾げる。
「そうなのか?って・・・。カズキが完成させたんじゃないの?」
「それは間違いないんだが、属性とか気にしてなかったからな。今初めて知った」
カズキはジュリアンに教わるまで、属性というものを知らなかった。
全ての属性に適正があったので、知らなくても不都合がなかったからである。
「俺はこれだ!」
次にマジックアイテムを起動したのはカリム。
彼の目の前には、剣の形をした炎が出現した。
カズキが勇者退治の時に使った魔法なので、カリムも使いたかったのが理由である。
「じゃあ俺はこれで。一回でいいから、攻撃魔法を使ってみたかったんだよな」
クリスが選択したのは【ゲイボルグ】。
風属性の神話級魔法で、圧縮した竜巻を槍の形にして飛ばす魔法である。
「私はこれにします」
フローネがボタンを押すと、光の剣が現れた。【クラウ・ソラス】という名の光属性の神話級魔法だ。
それぞれが好きな魔法を選び、シーサーペントが海上に姿を現すのを待っているが、船上の異様な気配を察したのか、一匹として姿を現さない。
そこで、カズキが一計を案じた。
「ほいっと」
気の抜けた声と共に、解体したシーサーペントを魔法で海にばら撒いたのである。
すると、血の匂いに興奮したのか、途端に海が騒がしくなった。
「【レーヴァテイン】!」
興奮して姿を現したシーサーペントに向けて、カリムが叫んだ。
その意思に反応して、炎の剣がシーサーペントへと向かう。
狙い違わず命中した炎の剣は、一瞬でシーサーペントを灰にした。
「凄い威力だね。コエンが使ってたのとは、桁が違うよ」
「コエン?・・・誰だそれ?」
「カズキがランキング戦で戦った相手だよ。最後にマジックアイテムを使った・・・」
「・・・あーアレね。きっと、魔力が低い奴が創ったんだろう。今回はジュリアンとソフィア様だからな。そもそもの実力が違うんだろ」
「あれ?ソフィア様って、ギリギリ古代魔法を覚えられる位の魔力だったんじゃないの?」
「覚えた時はな。だけど、今のソフィア様の魔力は、あの時の倍近いぞ?」」
その言葉に、ラクトは固まった。
「・・・倍?どうやったらそんな急激に魔力が増えるの?」
「リバウンドだろうな。限界まで魔法を使うのを繰り返したんだろう」
「それにしたっておかしくない?僕や先輩も結構限界まで使ってるけど、そんなに上がってないよ?」
「そこは個人差じゃねえの?それか、一度に消費する魔力量に関係があるとか?カリムも魔法一発でぶっ倒れて、急激に魔力が上がってたし」
カズキが推測を語っている間にも、シーサーペントの駆除は進んでいた。
「【ゲイボルグ】!」
クリスの放った風の槍が、進行方向にいるシーサーペントを数匹まとめてミンチにし。
「【クラウ・ソラス】!」
フローネが発動した光の剣は、剣先からレーザーを発射してシーサーペントを蹂躙。
「【トール】!」
リディアの声に反応した光の玉は、海にいるシーサーペントに向かって無数の雷を放ちながら着水。周囲にいた敵を感電死させた。
「ワイバーン並みの魔物五十体を瞬殺・・・?」
「出鱈目な強さですね・・・」
わずか一分程で半分以上のシーサーペントを倒すという戦果を挙げた『真・アーネスト号』に、ラクトとマイネの表情が強張る。
対照的に上機嫌なのが、ジュリアン、ソフィア、アーネストの三人。
「シーサーペント五十匹を、一分程で殲滅ですか。まあまあの戦果ですね」
「そうね。でも、ちょっとやりすぎたかしら?海が沸騰してるわ」
「この付近にはシーサーペントしかいないから問題ない!残りもとっとと片づけて、漁を再開できるようにすればいいだけだ!」
そう叫んだアーネストの我侭のせいでシーサーペント討伐が遅れたのだが、それを指摘しないのは、ジュリアンとソフィアが我を忘れて暴走したからである。カズキに任せていれば、船はもっと早く完成した筈だからだ。
「次はどれにしようかな~?」
そんな葛藤とは無縁のカリムが次に選んだのは、土属性の神話級魔法【ブリューナク】だった。
理由は単純で、ラクトが簡易版を使ったという話を聞いて、自分でも使ってみたいからである。
「俺はこれだ」
クリスは【グングニル】を選択。空間属性唯一の攻撃魔法で、狙った獲物は決して逃さず、放った後に術者の手元に戻る槍の形をした神話級魔法だ。
「じゃあ私はこれにします」
フローネが選択したのは、闇属性の神話級魔法【ダーインスレイヴ】。
ボタンを押した瞬間に、闇色をした禍々しい形の剣が現れた。
発動したら魔法の標的になった獲物の血を完全に吸い尽くすまで消えない恐ろしい魔法なのだが、動物の血抜きに使えると、城の料理人に大好評の魔法である。
「私はこれにしようかしら」
ソフィアは【コキュートス】を選択。
鮮度を保ったまま食材の保存が出来ると、城の料理人に・・・(以下略)。
「これで神話級の魔法が八つか・・・。確か、神話級の魔法を放つマジックアイテムを十個搭載するって言ってたよね?残りの二つの魔法はなんだろう?文献にはなかったと思うんだけど。カズキなら知ってる?」
「いや、 サッパリ。何しろ、文献なんて代物を読んだこともねーし、つい最近まで神話級って言葉も知らなかった位だからな。そんな事より、二人は良いのか?このままだと、シーサーペントが全滅するぞ?」
カズキは、先程ラクトとマイネが魔法を使おうとしていた事に気付いていた。
テンションが上がった四人がその前にマジックアイテムを使ってしまったので、標的が無くなってしまったのだが。
「・・・やはり気付いていましたか。私達だと、発動までに時間がかかるので、出遅れてしまったのです」
「って事は、神話級の簡易版か。先輩も使えるようになったんだな」
「はい。昨日、漸く習得出来ました。学院長とカズキさんの会話がヒントになったのです」
「そっか。何がヒントになったのか分からないけど、先輩の役に立ったなら何よりだ」
カズキ達がそんな話をしていると、マジックアイテムの威力に高揚したのか、カリムが次の獲物を寄越せと催促してきた。
言葉には出さないが、リディアとクリスも似たような表情をしている。
「・・・そんな訳だから、二人は今から準備してくれ。多分、次で最後になるだろうからな」
ラクトとマイネは頷き、精神集中に入った。程なくして、赤と黄色の魔力光が二人から放たれ始める。
それを見て、マジックアイテムを使おうとしていた面々は動きを止めた。
「ふむ、ラクト君が使えるのは知っていたが、マイネ君も使えるようになったのか。やはり、あの二人は優秀だな」
「そうね。宮廷魔術士でも、使えるのはアレクサンダー位だものね」
「ええ。将来が楽しみです」
ジュリアンとソフィアがそんな会話をしている内に、二人の準備が整う。
それを見て、先程と同じように、カズキがシーサーペントを海にばら撒いた。
忽ち騒がしくなる海面に、再びシーサーペントの群れが姿を現す。
それと同時に、ラクトとマイネが魔法を発動した。
「焼き尽くせ!【レーヴァテイン】!」
マイネの放った【レーヴァテイン】は、十匹のシーサーペントをまとめて灰にした。その威力は、明らかにマジックアイテムを凌駕している。炎の加護を持つ、マイネだからこそ出来る芸当であった。
「打ち貫け!【ブリューナク】!」
ラクトの放った【ブリューナク】も、ジャイアント・アントと戦った時とは比べ物にならない威力だった。
こちらは五匹のシーサーペントを貫通し、水面に派手に着弾した。
そして、その死骸に群がるシーサーペントに向けて、マジックアイテム組が追い打ちを掛ける。
「打ち貫け!【ブリューナク】!」
ラクトの真似をして、カリムが【ブリューナク】を発動。
「【グングニル】!」
「【ダーインスレイヴ】!」
「【コキュートス】!」
他の三人も、それぞれ魔法を発動。
そして一分後、全てのシーサーペントが、この海域から消滅した。
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