第三百四十話 カズキ、孤児院を改修する その3
「さて。カズキが納得してくれたし、これからの事を話しましょうか」
エルザはそう前置きをすると、預かってもらった場合の養育費や、人数が増えた事による、一人当たりの居住スペースが狭くなってしまうという問題があると、カズキに説明した。
「確かにそれは問題ですね。猫たちのお世話をお願いする以上、そこに住む人たちにも気持ちよく生活してもらわないと。まあ、僕にはお金がないので、今すぐ提供できるのは食料と居住空間だけですが」
「えっ・・・・・・?」
カズキの発言に、ハンナが『何言ってんだこいつ』という顔をする。食料は兎も角、居住空間は『直ぐ』に提供できるものではないのだから当然の反応だ。
「うん。これなら大丈夫そうだ。エルザさ――」
「ねーさん」
「・・・・・・ねーさん。孤児院の敷地の下に部屋を造っても大丈夫ですか?」
「むー」
「あっ・・・・・・。ええと、大丈夫?」
「大丈夫。問題ないわ」
再び始まった敬語矯正に戸惑いながらも望みどおりにすると、一転してエルザは笑顔になり、返事をしてくれた。
「じゃあ始めます。・・・・・・終わりました」
「えっ?」
既に砦を何度か造っている事もあり、地下の新たな居住スペースは一瞬で完成した。だが、カズキの事を碌に知らないハンナには何が何だかわからない。
「じゃあ見てみましょうか?」
だからエルザは率先して立ち上がると、いつの間にか部屋の片隅に出来ていた地下への入り口へとハンナを促す。
「何ですかこれはーーーーーーーーー!?」
そして階段を降りた先にあった、敷地面積と同等の広大な空間を見て、ハンナが絶叫するのであった。
「次は地上の建物ね」
地下の新たな居住空間に、保護した猫たちと子供たち、そして元からいた子供たちを放流したカズキ達は、続いて老朽化の激しい地上部分の改築に移る。
とは言ってもこちらは元の建物の形を踏襲する形なので、木でできた部分を全て石造りにしただけだ。
元から住んでいる子供やハンナが、わざわざ部屋の移動をしなくても済むように配慮したのである。
「やだーーーーーー! 俺(私)も地下に住みたいーーーーーー!」
とはいえそれは大人の考え方。元から住んでいる子供たちは皆、新しく出来た地下の居住空間に住みたがった。それもその筈。カズキが造った新たな部屋は、全て個室が前提になっていたのである。
居住スペースが少ないから仕方がないとはいえ、今まで狭い部屋に5、6人と押し込まれ、寝て起きると誰かの脚が顔の上に乗っかているという状況に皆、思う所があったらしい。
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