第三百三十九話 カズキ、孤児院を改修する その2
ランスリードに帰ってきたカズキとエルザは、その足でエルザが支援しているという孤児院に向かった。
猫たちは兎も角、孤児をいきなり城に連れて行く訳にはいかないからだ。
「ここよ」
「・・・・・・何というか、趣のある建物ですね」
エルザに案内されて街の外れに立っている孤児院に来たカズキは、今にも倒壊しそうなその建物を見て、精一杯控えめな表現をした。
「遠慮せずボロいって言っていいのよ? 実際、その通りだし」
エルザはカズキにそう言うと、スタスタと歩いて孤児院の扉を開け、慣れた様子で中へ入っていく。
「お邪魔しまーす」
置いて行かれないようにとカズキがその後に続くと、エルザの隣に恰幅の良い中年女性が立っていた。
「紹介するわ。こちらが神殿から孤児院を任されているハンナさん。で、こっちが弟の」
「カズキ・スワです。よろしくお願いします」
「これはご丁寧に。こちらこそよろしくお願いします」
互いの挨拶が終わると、エルザが早速ここに来た理由を話し出した。
「申し訳ないんだけど新しい子を預かって欲しいのよ」
「エルザさん達のお陰でお金には困ってないからそれは構わないんだけど・・・・・・。何人ですか?」
「五人よ。それと猫も50匹」
「エルザさん!?」
猫も預けるという話をエルザがすると、聞いていなかったカズキが非難の声を上げた。
言うまでも無い事だが、カズキは保護した全ての猫の面倒を見るつもりだったのである。何故なら【次元ハウス+ニャン】という魔法には、それが出来るだけのスペースと設備が整っているからだ。
だからエルザもいつもの様に『エルザさん』呼びを訂正する事なく、真剣な表情でそれをさせる訳にはいかない事情を伝える事にした。
「ねえカズキ。私達には邪神との直接対決が控えている事はわかっているわね?」
「はい」
「じゃあその戦いの中で、私達が負ける可能性がある事もわかっているわよね?」
「・・・・・・はい」
エルザの雰囲気に釣られ、真剣な顔で頷くカズキ。
クリスがライバル云々を言い出した時、積極的に強くなる事を望んだのも、邪神に負ける確率を少しでも減らそうとの考えだったからだ。
「負けても生き延びる事が出来るならばいい。でももし、死ぬ、或いはそれに近い状況になった時、【次元ハウス+ニャン】の中で生活している猫たちはどうなるの?」
「・・・・・・それは」
最悪の状況が頭を過ぎり、カズキは言葉を詰まらせる。そして――
「・・・・・・わかりました。猫たちの世話をするのは諦めます」
断腸の思いで保護した猫たちを、孤児院と王城に託すことに同意したのだった。
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