第三百三十五話 クリス、終生のライバルを見つける その7
「これまた派手にやったわね。初めてじゃない? あんたがこんなに追い詰められたのは」
強権を発動して手合わせを終わらせたエルザは、軽い脳震盪を起こしていたカズキを治療して部屋で安静にするように申し付けると、もう一方の当事者であるクリスに声を掛けた。
「ああ。死が過ぎるなんて初めての経験だぜ。・・・・・・やはり俺の目に狂いはなかった」
声を掛けられたクリスは、苦痛に顔を歪めながらも笑みを浮かべるという器用な事をしつつエルザに応じる。
死にかけたのに笑みを浮かべているのは、彼をそこまで追い詰める事が出来る存在がこれまでいなかったからであって、決して彼がMに目覚めたわけでは無い。多分。
「ええっと。結局何がどうなったんだ?」
「簡単に言うと、カズキの魔法に絶体絶命のピンチになったクリスが火事場の馬鹿力を発揮。空中を足場にして魔法の包囲を間一髪で脱出すると、勢いのままカズキに斬りかかったの。カズキはそれを魔法で防ごうとして土の盾を出したけど、敢え無く破壊されて剣で防御したわ。でもクリスの勢いを殺す事が出来ずに吹き飛ばされて色々なところを骨折。後は頭を打って脳震盪を起こしていたわ。こいつはこいつで無茶の反動で全身の筋肉が断裂してるみたいだったから、引き分けにしたの」
「・・・・・・あの一瞬でそんな事があったのか」
エルザが二人の短くも激しい戦いの様子を、アマラント達に話しているのを聞くとはなしに聞きながら、クリスは自分が空中を足場にした時の事を思い出していた。
「先ずはあの状態に耐えうる体づくりだな。毎回このザマじゃあ、次にカズキと手合わせしたら負け必至だ。あの状態に自分の意志で入れるように訓練するのはその後だ。その為に手っ取り早いのは命の危機に陥る事なんだが、カズキに頼むのは違うしなぁ」
流石のクリスも今回ばかりは勝手が違った。
その圧倒的な実力のせいで、今までにクリスと互角の戦いを演じられたのはエルザただ一人だけ。だがそれも、鉄壁の防御を誇るエルザを如何に攻略するかという話なだけで、今回の様に命の危険を感じた事はない。
基本的に回復や防御に特化している神官である彼女に、クリスの命を脅かすような魔法が無いのがその理由である。
「いや、待てよ?」
そこまで考えたところで、クリスは今回の戦いが命の掛かった決闘ではなく、手合わせだという事を思い出した。
「そうだよ! 手合わせなんだから、いくら負けたっていい! 何しろ死なないんだからな!」
クリスはそう思い至ると、自分の考えの素晴らしさに飛び上がった。
「痛ってえええええええ!」
その手合わせで命の危機に瀕し、全身の筋肉が断裂しているのをすっかり忘れていたのを、エルザに散々からかわれる事になったが。
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