第三百二十一話 カズキ、勇者にブチギレる その2
「先に行く!」
弱った母猫と仔猫を発見したカズキは、クリスとエルザに一言だけ告げると猛然と駆け出す。そして、街門の遥か手前で踏み切るとそのまま跳躍して城壁の上に着地。突然の事に固まっている門番二人を殴り倒すと、町の中へ消えていった。
「いきなりだな。よっぽど酷いものでも見たのか?」
「あの感じだとそうでしょうね。私はカズキを追うから、あなたは中央の館に向かってくれる?」
「おっしゃ! 任せろ!」
返事をしたクリスはカズキに勝る速度で駆け出し、あっという間に街門に辿り着くと愛剣を一閃。
「あらよっと」
続く動作で前蹴りを繰り出すと、派手な音を立てて門が町中に倒れ込んだ。
「じゃあお願いね」
後に続いていたエルザはクリスに声を掛けると、中央の館への一本道を逸れる形で街中に消えていく。
逆にクリスの方は剣をぶら下げたまま、ゆったりとした足取りで堂々と館へと向けて歩き出した。
「なんだお前は!」
程なくして館の方から10人の男が現れた。クリスが目論んだ通り、門が壊れた時の派手な音を聞いて、様子を見に来たらしい。
「勇者が2。その他が8。全員で出てきてくれたのだけは褒めてやる。お陰で手間が省けた」
クリスは賊の言葉にそう答えると、それ以上の問答は無用とばかりに斬りかかった。
「・・・・・・ャー」
一方その頃。感情の赴くままに暴走し、無事猫たちの元に辿り着いたカズキは、母乳を貰おうと懸命に藻掻いている仔猫たちに、ナンシー用の山羊乳を魔法で空中に固定した哺乳瓶を使って飲ませつつ、呼吸の弱々しい母猫の看病を始めていた。
「大丈夫。絶対に助けるから」
母猫を励ましながら、加熱したワイバーン肉を魔法でペースト状にし、最近開発した魔法――猫限定の回復効果のある水――で薄めて口の端から少しづつ流し込む。
「ミャー」
そうして介護する事5分。ワイバーン肉と回復効果のある水に相乗効果でもあったのか、母猫は起き上がる事が出来る程に回復した。
「・・・・・・良かった」
ホッとしたカズキは物足りそうな母猫の前に、今度は細かく刻んだワイバーン肉と、回復効果のある水を別々の皿に入れて置き、そこで初めて人間もガリガリに瘦せていた事を思い出した。
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