表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/361

第三十二話 試験が終わって

 立っているキマイラを見て、フローネは悔しそうな顔をした。

 魔力は尽きており、火傷の痛みもあって意識は朦朧としている。

 それでも諦める気はなかった。あと少しという所まで追い詰めたのだから。


「お疲れ様」


 エルザが近寄ってきて回復魔法をかけようとするが、フローネはそれを拒否した。


「まだ・・・、終わってません」

「いや、終わりだ」


 ジュリアンの宣告に、フローネは項垂れた。


「もうキマイラは死んでいる」


 その声に顔を上げると、キマイラが倒れるところだった。

 緊張の糸が切れたフローネは、その場にへたり込む。


「良かった・・・」


 そこにクレアを抱いたカズキがやってきた。


「ミャーン」


 クレアはカズキの腕から飛び降りると、一目散にフローネの元へ駆けつけた。

 だが、火傷しているフローネを心配してか、エルザに訴えるような顔を向ける。


「【ヒーリング】」


 エルザが癒しの魔法を使うと、フローネの傷が完治した。

 

「クレア、もう良いわよ」


 エルザの許可を貰ったクレアは、フローネに飛びついた。

 精魂尽き果てたフローネは、その勢いに抗しきれずに後ろに倒れる。


「くすぐったいです」


 クレアの熱烈な愛情表現に、フローネの顔が綻ぶ。

 そして、そのまま意識を手放した。


「カズキ、三人を」

「分かった」


 全員を癒したエルザの要請に応え、カズキが魔法を発動すると、三人とクレア、エルザの姿が消えた。

 【次元ハウス+ニャン】の、それぞれの部屋へと移動させたのだ。

 エルザを一緒に移動させたのは、フローネとマイネの着替えを任せるためである。


「どうやらバレなかったようだな」


 クリスがキマイラを見ながら言った。

 

「そうだな。だが、敢えて言う必要もないだろう。三人の実力は証明された」


 キマイラは死んでいなかった。

 遠目に見ていたギルドマスターと教官には感知できないスピードで、クリスが止めを刺したのである。

 キマイラが魔法を使いだした時点で、三人に勝ち目はないというのがジュリアン達の見立てだった。

 その見立てをいい意味で裏切り、後一歩のところまで追い詰めた三人の自信を付けさせるために、独力で倒した事にしたかったのだ。


「キマイラって食えるのか?」


 カズキが不意にそんな事を言った。


「無理だ。初代勇者の記録には、腹を壊すと書いてあった」


 ジュリアンが答える。


「じゃあ、いいや」


 カズキがそう言うと、キマイラが一瞬で燃え尽きた。

 後に残ったのは、燃えカスだけである。

 クリスが止めを刺した事がギルドマスターと教官にバレる前に、ジュリアンとカズキは一芝居を打った。

 

「さて、これで試験は終わりか。もう帰ってもいいんだろ?」

「ああ。後はこちらの仕事だからな。ご苦労だった」

「別に何もしてねーけど」

「・・・そういう事にしておく」


 カズキは本気でそう言ったのだが、ジュリアンは信じなかった。

 カズキがいなければ、キマイラと戦うことさえできなかっただろう。それ程にカズキの存在は大きいのだ。

 

「お待たせ。もう良いわよ」


 そこに、三人を着替えさせたエルザが戻ってきた。


「じゃあ、行くわ」


 帰ろうとするカズキに、ギルドマスターが声を掛ける。


「カズキ殿。三人が目を覚ましたら、ギルドに連れてきて下さい。それと・・・」

「?」

「ワイバーン、ごちそうさまでした」

「食ったんかい!」

「昨日から学院にいましたからな。いやぁ、美味かった」

「・・・そうですか」


 嬉しそうなマスターに返事をして、今度こそカズキは去っていった。




 三人が意識を取り戻したのは、翌朝の事だった。

 エルザが用意した朝食をクリスと三人で食べていると、匂いに誘われたのか、続々と起きだしてきたのである。


「「「・・・おはようございます」」」

「おはよう、みんな。お腹空いたでしょう?今用意するから、座って待っててね」

「「「・・・ありがとうございます」」」


 三人はまだ眠そうだった。

 気を利かせたクリスが、三人にコーヒーを淹れる。

 礼を言ってコーヒーを受け取った三人は、一口飲むなり顔を(しか)めた。


「「「苦っ!」」」

「アレ?おかしいな。ちゃんと淹れたのに」

「泥水かと思いました」

 

 首を傾げるクリスに、ラクトが辛辣な意見を述べる。


「また失敗したのか?しょうがねぇなぁ」


 言いながらカズキが立ち上がり、代わりのコーヒーを淹れた。砂糖とミルクも用意する。

 今度は誰からも文句は出なかった。


「・・・・・・・」


 落ち込むクリス。

 クリスは家事が壊滅的に下手だった。

 出来る事といえば、食材を切る事と、肉を焼く事位である。

 

「お陰で目が覚めました。ありがとうございます」


 クリスを気遣って、マイネがフォローするようにそう言うが、エルザが台無しにした。


「気を遣う必要はないわ。こいつにはこう言えばいいの。・・・余計な事をするな!ってね」

「そうですよ?マイネさん。下手にフォローを入れると、また泥水を飲まされます」

 

 子供の頃から被害を受けていたフローネも容赦しなかった。

 寝惚けていなければ、口をつける事は無かったと顔に書いてある。

 

「はいどうぞ。疲れているでしょうから、精の付くものにしたわ」


 エルザが用意したのは、豪快にワイバーンのステーキだった。味付けは、シンプルに塩コショウだけである。

 

「「「頂きます!」」」


 目の色を変えた三人は、脇目も振らずワイバーンに没頭した。


「フミャー」


 それを見ていたクレアが、羨ましそうな顔でエルザを見た。


「クレアにはこれね」


 フローネの看病?をしていたクレアにも、ワイバーンが振舞われる。

 ナンシーはすでに食べ終えて、カズキの膝の上で毛繕いをしていた。


「美味そうだなぁ・・・」


 三人を見ていたクリスが、物欲しそうな顔でエルザを見た。


「・・・一枚だけよ」


 視線の圧力に耐えきれず、エルザはクリスにもステーキを用意した。


「カズキは?」

「俺はいいや」


 カズキはそう言ってコーヒーを口にした。


「「「お代わり!」」」

「ハイハイ。今焼くからサラダを食べてて」


 エルザは皿を下げると同時に、山盛りのサラダを各人の前に置いた。

 大人しくサラダを食べ始める三人と、ついでにクリス。 

 

「どれだけ食うんだ、クリスは」

「よく言うだろ?美味いものは別腹って」

「聞いた事ないぞ」


 呆れたようにカズキは言った。


「そうだっけ?まあいいじゃないか」


 それだけ言って、クリスは食事に戻る。

 結局、四人はお代わりを三回した。

 

「「「「ごちそうさまでした!」」」」

「ニャー」

「お粗末様。今日はゆっくり休むんでしょ?」


 エルザの言葉に、カズキが頷く。


「そのつもりだよ。三人は魔力が回復してないし、体力も戻ってない。・・・ギルドに行くのは明日でも構わないよな?」


 カズキが視線を入り口に向けると、そこにはジュリアンが立っていた。

「「いつの間に・・・」」


 マイネとラクトは全く気付かなかったが、他の三人は気付いていたらしく、誰も驚いていなかった。


「構わない。ギルドマスターには明日になるだろうと伝えてある」

「ギルドですか?どうして・・・?」


 ラクトの疑問に、ジュリアンが答える。


「三人は必死で気付かなかっただろうが、昨日、あの場所にはギルドマスターがいたんだ。実力とランクが乖離している者に、適正なランクを与える為に」

「マイネは元からAランクだから、あまり関係はないけどな。フローネとラクトはランクが上がるだろう」

「「・・・ホントですか?」」

「本当だ。二人は恐らくBになるだろう。Aになるには実績が必要だからな」


 ジュリアンはそう言いながら椅子に座った。

 ランク制度に興味がないカズキは、ナンシーを撫でるのに忙しそうである。


「実績ですか・・・。とにかく依頼をこなせばいいんですよね?」

「そうだな。後は失敗しない事だ。他にも例外はあるが・・・」


 ジュリアンはカズキを見た。


「ん?」

「例えば、ここにいるカズキはギルドに登録する前に単独でワイバーンを倒している。よって、登録と同時にSランクでスタートした」

「そうなのか?」

「学院長!例えがおかしいです!」

「私もそう思う。だから例外なのだが」


 ジュリアンは咳払いをした。


「そういう事だから、今日はゆっくり休んでくれ。・・・ああ、言い忘れていた」


 ジュリアンは三人の顔を見回した。


「三人共、良く頑張ったな」

「「「・・・はい!」」」

「では、失礼する」


 ジュリアンはそう言って退出した。忙しい中顔を出したのだろう。 


「うーん、同じ兄弟でこの違い。やっぱり、影響される人によって変わるんだろうか」


 カズキがクリスを見ながら、わざとらしく言った。


「・・・何が言いたい」

「あら、言われないとわからないの?」

「・・・いや、いい。言わなくて」


 クリスの願いも空しく、カズキとエルザは先を続けた。


「ジュリアンはソフィア様の影響を受けてるよな。腹黒いのは別として」

「それはしょうがないんじゃない?ランスリードの次期国王様だし」

「今でも実質そうだけどな」


 クリスがボソッと言った。


「クリスはどう考えても父親にそっくりだな。特に、土下座と金」

「それだけ聞くと、ただのクズだよね」


 ラクトも話に加わる。


「だよなぁ。呼んでないのに金欠二人組は飯を集りにきたしな。その後ソフィア様に土下座したらしいし」

「待て!何でそのことを知っている!」

「ドゲカルチョ売り場の前に張り出してあったからよ。確か・・・、『学院生のお金で暴飲暴食をしたのがバレて、クリスと一緒にソフィア様に説教された』って書いてあったはず」

「なんてこった・・・」


 クリスは頭を抱えた。情報提供者は、間違いなくジュリアンであろう。

 カズキの奢りだからとセバスチャンと一緒に高級な物を頼みまくったツケが、国中へ恥をさらすという結果になってしまった。

 勿論、自業自得である。


「フローネはソフィア様とねーさんか?でも、昨日の戦い方はクリスも入ってたよな」

「一番近いのはカズキの戦い方じゃないかしら?魔法と接近戦を組み合わせるとか」

「何でカズキがそんな戦い方をする必要が?」


 ラクトの疑問は尤もだった。カズキなら魔法だけで圧倒出来る筈なのだ。

 マイネも同様のようで、興味深そうな表情をしていた。


「それはねーさんの教育の影響かな。この世界に来た時の俺は、ガリガリに痩せてたから。とても長旅に耐えられるような状態じゃなかったし」

「・・・そうなんですか!?」

 

 今のカズキからは考えられない話に、マイネは驚きを隠せなかった。


「そうなのよ。だから栄養を摂らせて、適度な運動をさせた訳」

「それで剣術ですか?」

「他にも色々とね。魔法より先に剣に触れたから今のスタイルになったんじゃないかしら?その時はフローネも一緒だったわ」


 箱入り娘と病み上がりの少年。二人に戦い方を教えたのはエルザだった。


「つまり、二人が一番影響を受けたのは、エルザさんという事ですね」

「自慢の弟と妹だからね。そういう意味では間違ってないかも」


 ちなみにクリスは参加していない。カズキと手合わせをするようになったのは、旅に出てからの話である。参加しなかったのは勿論、金策に励んでいたからだ。

 

「クリスの影響を受けなくて良かったぜ。土下座は御免だからな」

「そうですね」


 実の妹が即答した事に、ショックを受けるクリス。

 

「・・・少し位フォローしてくれてもいいんだぞ?妹よ」

「お兄様のどこをフォローすればいいんでしょう?教えて頂けますか?」


 フローネはにっこり笑顔でクリスに止めを刺した。


「何故俺には味方がいないんだ・・・」


 項垂れるクリス。


「日頃の行いって大事なんですね・・・」


 クリスを理解し始めているマイネがしみじみと言った。



  

「先日はごちそうさまでした、カズキ様」


 翌日、ラクト率いるパーティは、学院のギルドに顔を出した。

 そこで発せられた第一声がこれである。


「気にしないでくれ。それで、マスターは?」

「奥でお待ちです」

「ありがとう」


 職員に案内されて奥に行くと、ギルドマスターが待っていた。


「やあ、先日は見事な戦いぶりだったね」


 こちらが挨拶をする前に、マスターは話を切り出した。

 細かい事を気にしない性格なのだろう。


「「「ありがとうございます!」」」


 マスターは満足げに三人を見た後、先を続けた。


「学院長から聞いていると思うが、今日ここに来てもらったのは、ラクト君とフローネ君のランクに関する事だ。先日の戦いぶりから判断して、二人のランクを上げる事になった。マイネ君には申し訳ないが・・・」

「気にしないで下さい。今の私の実力では、到底Sランクに届かない事は承知しています」

「そう言って貰えると助かる。知っての通り、Sランクになるための条件は厳しいからね。かくいう私もAランク止まりだ」


 そうは言っても、Aランクになれる者は全体の一割にも満たない。


「話を戻そう。たった今から、ラクト君とフローネ君はBランクになる。君たちはまだ若いから、これから実績を詰めばAランク、そしてSランクも夢ではないだろう。君たちの活躍を期待している。幸い、カズキ殿という手本が身近にいるからね」

「ちょっと特殊すぎる気もしますが・・・」

「確かに!だが、同じ人間だ。諦めずに目指し続ければ、いつかは届くかもしれないだろう?」


 その言葉で、マスターも諦めていない事が分かった。

 考えてみれば、彼らの親もまた、鍛錬を続けている。それは、まだ諦めていないからではないだろうか?

 ギルドマスターの言葉に、考えさせられる三人であった。

 その時、ドアをノックする音が聞こえて、扉が開かれた。考え事をしていた三人も、それで我に返る。


「失礼します。他の学生がいらっしゃいました」

「そうか。慌ただしくて済まないね。君たち以外にも有望な若者が来たようだ。この後は受付でライセンスの更新をして貰いたい。他に何か聞きたい事はあるかな?」

「そういえば、キマイラを倒した後のボスって、どうなったんです?」


 カズキの質問に、マスターはニヤリと笑った。


「あの場にはクリストファー殿がいただろう?彼だよ」

「クリスさんと戦ったんですか?それは気の毒に」

「まあご想像通り全く歯が立たなかったがね。それでもいい経験になったのではないかな」

「あいつ、仕事してたんだな」


 失礼な事を言うカズキに、全員が同意した。


「他にはあるかな?・・・無いみたいだね。では済まないが受付に行ってくれるかな?」

「「「「「失礼します」」」」


 四人は挨拶をして部屋を出る。


「さて、受付に行くか。その後はどうする?」

「依頼が無いか見ていかない?お金が無いんだ」

「私は構いませんよ?」

「私もです」


 メンバーの同意を得られたラクトは、張り切って受付に向かう。

 そこには先客がいた。彼らと同じように奥へ案内されるのかもしれない。


「あれ?あの人って・・・」


 そこにいたのは、初日にカズキに決闘を挑んだ男。名を、コエン・ザイムという。

 彼はこちらを見るなり、偉そうに声を掛けてきた。


「新入生がマイネに取り入って、上手い事やったようだな」

「・・・誰だ?お前」


 カズキは勿論覚えていなかった。

 他の三人は笑いを堪えている。


「ふん。デカい口を叩けるのも今の内だ。入学早々エストを倒して十位に入ったのには驚いたが、魔法は専門外だろう?今の内にその剣との別れを惜しんでおくことだ。私が手にした暁には、杖に加工して有効に使ってやる」


 大賢者に向かって、魔法の素人と断定するコエン。

 事情を知る者にとってはただのギャグである。

 ギルドの職員とラクト達は、笑いすぎの呼吸困難に陥っていた。


「マイネ、お前は私が認める数少ない実力者の一人だ。レベルの低い者とパーティを組んでも得るものはない。今からでも私のパーティに参加した方がいいぞ?」


 矛先が自分に向いて、マイネは苦労しながらも笑いの発作を抑えた。


「ぷっ。け、結構よ。わ、私には私の考えがある。あ、あなたに指図される謂れは無いわっ」


 訂正。完全に抑えることはできなかった。今も肩が震えている。


「お前が感情をむき出しにするとはな。まあいい、今日はこれまでにしよう。ギルドマスターに呼ばれているのでな」


 マイネが怒っていると勘違いしたコエンは、そう言って立ち去った。

 たちまち起こる爆笑の渦。

 

「・・・何だったんだ?まあどうでもいいか」  


 カズキはそう言って受付に向かった。だが、職員も爆笑していて仕事どころではない。

 皆の発作が収まったのは、それから五分も経ってからである。


「はぁー、笑った笑った。勘違いもあそこまで行くと、最早芸の領域だよね」

「彼はプライドだけは高いのです。ランスリードの隣国、ザイム王国の王族ですから」

「王族が追い剝ぎをしてるのか・・・。でも、合法的な分だけクリスよりはマシか?」

「この学院に入ると、実家の援助は受けられませんからね。学院のギルドでは報酬も低くなります。ですから良い装備を持った人間が狙われるのです」

「パーティを組んだら報酬が人数割りだもんな。追い剝ぎしたくもなるか」

「そうかもしれませんね。それにしても、ザイム王国にコエンなんて人がいましたっけ?」


 フローネが首を捻る。

 王族なら国同士の付き合いなどで、顔を合わせていてもおかしくは無かった。にも関わらず、コエンという名前は聞いた事が無い。


「彼は王位継承権が百五十位とかなり低いのです。前王の一番下の弟の末っ子ですから。だから社交パーティなどに出なくても文句を言われなかったらしいですよ?」

「そこまで行くと、継ぐものも無さそうだね・・・」

 

 ラクトの持っている次元屋の情報にも名前が無かった位だから、コネにする必要を感じなかったのだろう。

 そう考えると不憫である。


「それで冒険者になろうと学院に入ったのか?まあ、学院に入れたんだ。才能はあるんだろう」

「そうかもしれないね。それで?コエンの魔力は高いの?カズキなら分かるんだよね?」


 同じ魔法使いとして気になるのか、ラクトがそんな事を聞いた。


「知らない奴の魔力なんて、いちいち気にしないからなぁ。魔力が高い奴なら、離れててもある程度は分かるけど」

「それでさっき学院長が来たのに気付いたの?」

「まあそれもあるけど、普通は気配で分かるだろ?」


 当然のようにカズキに言われて、ラクトは自分が間違っているのではないかと錯覚した。

 

「・・・先輩は分かりました?」

「いえ全く。フローネさんはどうして分かったんですか?やはり気配で?」

「私も分かりませんでしたよ?お兄様は神出鬼没なので、慣れているだけです」


 フローネが驚いていなかった理由が判明した。これで普通に『気付いていましたけど何か?』などと言われたら、二人は立ち直れなかったかもしれない。


「お待たせしました。ライセンスをお返しします」


 発作の収まった職員は、カズキたちの雑談の間にライセンスの更新を行っていた。

 戻ってきたライセンスを見て、ラクトが歓声を上げる。


「ホントにBランクになってる!単位も十四になって、今年の退学はもう怖くない!」

「私の単位も四十八になりました。順調です」

「「ニャー♪」」

「フフッ、二人も祝福してくれるんですか?ありがとうございます」


 嬉しそうな三人を見て、ナンシーとクレアが三人の周囲をグルグルと走り回った。

 カズキはその光景を見て癒されている。

 

「平和だなぁ。今日は依頼を探さないで、帰らないか?」

「そうですねぇ」


 カズキとフローネの二人は、猫たちを見ながらそんな話を始めた。

 ラクトのように切羽詰まっていないので、今日は猫たちと遊んで、明日からでもいいんじゃないかという気持ちになってしまったのだ。

 

「ちょっと待った」


 善は急げとばかりにナンシーとクレアをそれぞれ抱き上げて、寮に引き上げようとした二人をラクトが制止する。


「どうした?」

「どうしたはこっちのセリフだよ。何で帰ろうとしてるのさ」

「今日は帰りたい気分なんだ。なぁ?フローネ」

「はい。昨日は一日寝ていたので、クレアとの触れ合いの時間が少なかったのです。寂しがっていたクレアのためにも、今日はお休みにしましょう」


 『しませんか?』ではなく、『しましょう』という所に、フローネの断固とした意思が表れていた。


「本気だ・・・。本気で帰ろうとしてる」


 言葉が届かなかった以上、ラクトにこの二人を止める術はない。

 助けを求めるようにマイネを見ると、彼女も帰る気満々だった。

 本当はゆっくりしたかったのだろう。

 三対一でラクトの希望は打ち砕かれ、気付けばラクトは一人で佇んでいた。


「一人で依頼を受けようかな・・・」


 ラクトは一瞬本気でそう考えたが、結局は三人の後を追う事にした。

 【次元ハウス+ニャン】で過ごせば、お金が掛からない事に気付いたのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ