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第三十話 試験開始

 その日、学院の生徒たちは荒野に集まっていた。

 年に三回行われる試験、その一回目がこれから始まるのだ。

 試験内容はまだ明かされていない。その為、皆一様に緊張を隠せないでいた。


「楽しみですね、カズキさん」


 そんな中、そうカズキに声をかけたのは、フローネだった。


「そうだな。どうやら面白い事になりそうだ」


 カズキもフローネに同意した。彼だけはジュリアンの仕掛けに気付いている。


「面白い事?」


 そう言ったのはラクトだった。彼は緊張した表情で、辺りを伺っている。


「ああ」

「何々?教えてよ」

「すぐにわかるさ。ほら、ジュリアンが来たぜ」


 カズキに促された方を見ると、そこにはジュリアンがいた。何故か2mほどの高さの空中を歩いている。


「おい。あれ学院長だよな?」

「ああ、間違いない。だが、空中を歩く魔法なんて聞いた事があるか?」

「ないな。では、あれはオリジナルの魔法なのか?」

「だろうな。だが・・・」


 騒ぐ生徒たちに何の説明もせずに、ジュリアンは口を開いた。


「皆、おはよう。これから試験を開始する。まずは後ろを見てくれ」


 生徒たちが言われるがままに振り替えると、直前まで何もなかった地面に、無数の穴が開いていた。よく見ると階段があり、下に降りれるようになっているらしい。


「この日のために作ったダンジョンだ。中には魔物が放ってある。今回の試験では、任意の入り口から入り、午後5時までに最奥まで到達したパーティに単位を与える。尚、パーティ同士の戦闘は不可だ。撤退のタイミングは各自で見極めるように。五時になるまで救出は行わないからな。では健闘を祈る」


 それだけ言うと、ジュリアンはさっさといなくなった。


「なるほど。ダンジョンを作ったのか。魔法で入り口を塞いでたんだな」

「これがさっき言ってた事?」

「ああ。あの辺一帯に魔力を感じたからな。急に入り口が現れたように見えたのは、魔法を解除したからだ」

「そうなの?やっぱり古代魔法?」

「ああ。ちなみに空中を歩いてたのもそうだ。あれは空間魔法だが」

「やっぱりそうかー。難易度高そうだったし」


 出来ることなら教えて欲しかった、と顔に書いてあった。


「それよりも、もう試験は始まってるんだが。行かなくていいのか?」

「そうだった!でも、情報が少なすぎない?」

「そうですね。そもそも最奥がどこかもわかりませんし、どんな魔物がいるのかも分かりません。ここは慎重に進むべきでしょうね」


 マイネと同じ事を考えているのか、どのパーティもまだダンジョンに入っていなかった。


「フォーメーションを決めたほうがいいかも。罠とかもありそうだし」

「そうですね。私は初めてなので、皆さんの指示に従います」

「私も異存はありません。ではリーダー、どういうフォーメーションで行きますか?」

「僕がリーダーなんですか?カズキとか先輩の方がいいんじゃ・・・」


 マイネにリーダーと呼ばれて、ラクトは居心地が悪そうだった。


「面倒だからパス」

「私は新参ですから」


 二人に断られて、ラクトはため息をついた。


「分かった。じゃあ各自、自分の出来ることを申告して」

「おお、リーダーっぽい」

「カズキ、遊んでるでしょ?」

「そんなことはねえよ。感心しただけだって。俺は魔法と剣が使えるな」

「トラップとかは?」

「魔法で何とかしてた」


 カズキ以外の三人の脳裏に、発動すると同時にトラップが破壊される光景が浮かんだ。


「・・・マイネ先輩は?」

「私も剣と魔法ですね。適正は水以外全てです」

「トラップは?」

「細かいことは苦手で・・・」 

「成程。フローネさんは・・・」

「神聖魔法を少し。後は何も」

「分かりました。・・・一応聞くけど、ナンシーとクレアは?」

「「ニャ?」」

「うん。二人とも可愛いね」


 ラクトはそう言って、二匹の頭を撫でた。

 

「普通に考えればカズキを先頭にすれば問題ないんだろうけど、それだと何の為にこの学院に来たのか分からなくなるからね。カズキは最後尾をお願い」

「おう」

「先頭は僕で、罠とか警戒しながら進もうと思う。マイネ先輩は僕と入れ替わりやすい位置に。戦闘が始まったら変わって下さい」

「分かりました」

「フローネさんは先輩とカズキの間に。防御と回復は、全面的にお任せしますので」

「はいっ!」


 堂に入った指示に、カズキが感心の声を上げた。


「ラクト慣れてんなー。経験があるのか?」

「これでも次元屋の跡取りだからね。従業員と一緒に冒険する時は、リーダーをやらされたんだ。今のうちから上の視点を持つようにって」

「一種の帝王学の様なものですか。やはり大店になると、教育もしっかりしているのですね」

「やはり俺の目に狂いはなかったか。ラクトに任せて正解だぜ」

「さっき面倒だって言ってなかった?」

「覚えてないな」


 ラクトがジト目でカズキを見ると、目を逸らされた。


「はあ。もういいから出発しよう。他のパーティも動き出してる」


 普段から積極的に依頼を受けているパーティは、素早く動いていた。

 

「それで?何処から突入するつもりなんだ?」

「確実なのは他のパーティの後を追うことだけど、それじゃあ意味がないよね?」

「まあな。それにジュリアンの事だからそこらへんは対策してあるだろう。ほら」


 カズキが指さす方を見ると、パーティが一度使った入り口が閉じられていた。

 

「というわけで、誰も使ってない所に行くしかないな。どうせ情報が無いんだし、どこでもいいだろ」

「そうだね。じゃあ、一番近いあそこにしよう」


 そう言うと、ラクトが先頭に立って階段を下って行った。

 その後に、マイネ、フローネ、カズキ(+ナンシーとクレア)と続く。


「真っ暗です。何も見えません」


 さほど長くない階段を降りると、入り口が閉じられ、光が入らなくなった。


「フローネさん、動かないでくださいね。カズキ、明かりをお願いできる?」

「ああ」


 カズキが返事すると同時に、真上から光が差してきた。


「凄いですね。外と変わらない明るさです」


 感心した声を出すマイネ。


「ホントだよ。こんなに明るいとは思わなかった。カズキと冒険してると、他の人との時に苦労しそう」

「そうですね。野営の必要もありませんし、荷物の事も考えないでいいですし、お風呂に入れますし、ベッドで寝れますし、交代で見張りに立たなくてもいいですし、虫にも刺されませんし、おトイレもありますし・・・」

「先輩も苦労してるんだな」


 延々と続くマイネの愚痴を聞き流しながら、カズキはそう呟いた。


「女性はどうしてもね。色々あるから」

「それもそうか。ねーさんがうるさかったっけ」


 当時の事を思い出し、懐かしそうな顔をするカズキ。

 【次元ハウス+ニャン】の魔法をカズキが開発してからのエルザは、カズキが一緒じゃないと冒険に出ないと公言している程である。

 

「とりあえず先輩を正気に戻して先に進まねーか?いつまでもここにいる訳にもいかないし」

「そうだね。先輩、進みましょう」


 ラクトに肩を叩かれて、マイネは正気に戻った。


「・・・お見苦しい所をお見せしました」


 恥ずかしそうにそう言った後、ラクトのやや後ろに位置を取るマイネ。

 それを確認して、ラクトは進みだした。

 しばらく一本道が続き、罠らしい罠もないまま、広い空間に出た。


「みんな、気を付けて。魔物がいる」


 ラクトが警告を発し、マイネと素早く位置を変わった。


「ゴブリンだね。数は三。魔法を使う程の相手でもないし、魔力は温存で」

「「「了解」」」


 ラクトが素早く指示を飛ばし、三人がそれに答えた。

 まずはマイネが吶喊し、素早く一体のゴブリンを袈裟斬りにした。

 続いてフローネが果敢に攻めかかり、メイスでゴブリンの頭部を粉砕。

 残りの一匹は、いつの間にかカズキが倒していた。しかも、ナンシーとクレアを抱いたままである。


「見えなかった・・・」


 後方から見ていたにも関わらず、カズキが動いた事をラクトは認識できなかった。


「・・・メイスが汚れてしまいました」


 ゴブリンを倒した事に何の感慨も抱かず、フローネはメイスが汚れたことを気にしていた。


「そういえば魔剣にしてなかったっけ。貸してみ?」


 カズキはフローネのメイスを受け取ると、魔力を込めた。


「ほら、これで水洗いすれば汚れが取れる。手入れの必要もないぞ」

「ありがとうございます。カズキさん」


 ついでに水を作り出して洗浄した後、風で水分を飛ばしてからフローネにメイスを返した。


「え?」


 今起きたことが信じられず、マイネが驚きの声を上げた。


「どうかしたか?」

「・・・今、魔剣と言いませんでしたか?」

「言ったけど?」


 だから何?とでも言いそうな表情のカズキに、ラクトが説明をする。


「ほら、先輩は魔剣の事知らないでしょ?」

「・・・そうだっけ?」


 既に説明した気になっていたらしい。


「じゃあラクト、説明よろしく」


 どうせそう来るだろうと思っていたラクトは、手早くマイネに説明した。


「まさか魔法金属の謎を解き明かしていたなんて・・・」

「そういう訳なんで、他言無用でお願いします」

「カズキさんにしか出来ないのならば、そうするしかありませんね。私も命は惜しいです」


 マイネは頷いた。


「そう言えば、先輩は何で銀製の剣を使ってるんだ?」


 話が終わったとみて、カズキが自分の好奇心を満たすための質問をした。


「銀は若干ですが魔力を蓄える性質があります。魔法を使う時に銀を発動体として使うと、蓄えられた魔力を上乗せ出来るんです。カズキさんも同じ理由で使っているのではないのですか?」

「いや?これは入学式の時に騎士団の人たちからプレゼントされた物だ。その話とは全く関係ない」

「そうだったの?僕も先輩と同じ理由だと思ってたけど」

「違うな。その話を聞いたのは、今日が初めてだ。でもそれなら、銀がミスリルになるのも説明がつくな」

「「というと?」」

「マジックアイテムさ。ミスリルは銀よりも蓄える量が多いんだろう。だから半永久的に使えるんじゃないか?」

「「成程」」


 カズキの説明は分かり易く、理に適ったものだった。


「そういう事なら二人の装備も魔剣にするか?軽くなるし防御力も上がるし、手入れも楽になるぞ?」

「「良いの(ですか)!?」」

「構わねーよ。フローネだけってのも不公平だろ?」

「でもクリスさんに悪い気がする。ワイバーンの肉と引き換えに魔剣にするって言ってたよね?」

「あいつは良いんだ。ああ言っておかないと、際限なく要求しやがるから。魔剣なんて一本あれば充分だろうに」

「そうですね。コレクション全てを魔剣にしてもらおうとか考えているみたいでしたし」


 フローネの言葉に、カズキとラクトはクリスが土下座して頼み込む様子を幻視した。


「ですが魔力は大丈夫なのですか?先程も尋常じゃない魔力を消費していましたよね?」


 自分の魔力を遥かに超える量を一瞬で消費したカズキの負担を、マイネは心配していた。


「気にするな。半日で城中の装備を魔剣にした事もある」

「・・・・・・そうですか」


 心配して損した。マイネの顔にそう書かれているのがラクトには見えた。


「それじゃあ魔剣にしたい装備を出してくれ」


 カズキに言われて、マイネは剣を、ラクトは先端だけが銀製の小ぶりの杖を差し出した。


「・・・これだけか?遠慮する必要はないぞ」


 カズキがそう言うと、フローネが自分の鎧を指さした。


「ああ、それもあったか。後は?」


 結局、ラクトは護身用のショートソードを、マイネは盾と鎧を魔剣にした。


「カズキ、魔法を込めてもらうのって出来る?」

「いいけど、その杖にか?それだとマジックアイテムになっちまうぞ?蓄えた魔力はそれ専用になる」

「あ、そっか。じゃあ無理だね」

「そのうち銀製の物を持ってきたら作ってやるよ」

「ホント?ありがとう!」


 一方のマイネは、剣を振って感触を確かめていた。


「軽いですね。これが魔剣ですか・・・。鎧も盾も今までとは比べ物にならないくらい軽い。これがオリハルコンですか」

「鉄は普通に手に入るからな。コスパが良いのがオリハルコンだ。アダマンタイトが欲しかったら、ダマスカス鋼をもって来てくれ」

「いえ、これで充分です。ありがとうございます」


 マイネは嬉しそうにそう言った。


「でも、ズルしてるみたいで気が引けるなぁ」

「別にいいじゃん。運も実力の内って言うだろ?」

「カズキさんに会ったのが運だという事ですか?面白い言葉です。今度本に書いてもいいでしょうか?」

「別に断る必要もないぞ」

「ありがとうございます」


 フローネはノートを取り出して、今の言葉を書き留めた。


「じゃあ、そろそろ先に進もう。早く試してみたい」

「趣旨が変わってるぞ」

「おっと。慎重に進まないとね。でも魔物が出ないかなー」


 浮かれた足取りのラクトだったが、警戒は怠っていなかった。

 やがて分岐にたどり着く。


「どっちに行こうか?」

「ヒントもないですからね。適当でいいのでは?」


 フローネがそう言った時、ナンシーが鳴いた。


「ニャー」

「ん?右から人の声がする?」

「ニャーオ」 

「左からは水の音か。ナンシーはこう言ってるが?」

「人の声か。どんな感じの声なの?」


 ラクトの質問に、ナンシーが返事をした。


「ニャッ」

「戦ってるみたいだってさ」

「そっか。一応様子を見に行ってみる?もし苦戦してるようなら助けないと」

「そうですね。怪我人がいるかもしれません」

「決まりだな。じゃあ行くか」


 一行が右の道を進んでいると、ナンシーの言う通り、戦いの音が聞こえてきた。

 なにかがぶつかり合う激しい音がして、人が吹っ飛んでくる。

 ラクトの目の前で仰向けに倒れた男は、打ちどころが悪かったのか気絶していた。

 フローネが駆け寄り、直ちに魔法を使って治癒をする。


「【ヒーリング】」


 効果はすぐに現れた。目に見える怪我は跡形もなく消え去り、残ったのは気絶した男だけである。


「鎧が変形してるな。何と戦ったらこうなるんだ?」


 カズキが男の様子を観察すると、胸のあたりが大きく凹んでいた。


「鈍器で一撃って感じだね。こうなると他の人が心配だ。マイネ先輩、先頭をお願いします」

「分かりました」


 マイネは頷いて、ラクトの前を進み始めた。


「あれは・・・」


 先程ゴブリンと戦ったのと同じような部屋では、三人の男が一体の魔物と死闘を演じていた。


「くそっ。なんだこいつは!全然歯が立たない!」

「こんなに強い魔物を放しているなんて、聞いてないぞ!」

「真面目に講義を受けて、強くなった筈なのに!」


 彼らが戦っていたのは、身長五メートルに達する、金棒を持った巨人。所謂トロールであった。


「なんでこんな所にトロールが? Bランクの冒険者が相手にするような奴なのに」 


 ラクトの声は震えていた。


「私でも一対一では厳しい相手です。今までの試験で出たなんて、聞いた事がありません」


 マイネも心なしか緊張気味であった。

 それだけトロールは強いという事なのだろう。


「でも、よくこんな所に連れて来る事が出来ましたね。この部屋の中しか移動できないのでは?」


 フローネは違う事が気になっていた。そこに緊張の様子は欠片もない。


「ジュリアンなら出来るだろ。このダンジョンを作ったんだから」

「確かに」

「でも、どこから調達してきたんだろう? 普通に倒すのも難しいのに、生け捕りなんて・・・・・・」


 ラクトの疑問には、意外な形で答えが用意されていた。


「もしかしてアレかな? 半年くらい前に、魔物を生け捕りにしろって依頼があったんだよ。種類問わず、出来るだけ沢山って。学院からの依頼だったのか」


 一同納得。確かにこんな真似を出来るのは、カズキ位なものだろう。


「どうやって生け捕りにしたの?」

「魔法で眠らせた。数と種類は覚えてない」


 やっつけ仕事だったので、カズキの記憶も曖昧であった。とはいえ、覚えている依頼の方が少ないのだが。


「それよりもどうする? 加勢した方がいいよね?」

「そうですね。彼らでは厳しいでしょう。こちらに注意を引き付けて仕留めるしかなさそうです」


 マイネがラクトの意見に同意した。


「直接戦うのは私がやります。ラクトさんとフローネさんは援護を」

「「了解」」

「俺は?」

「カズキさんは保険で。危なくなったらお願いします」

「分かった。必要なさそうだけど」


 そう言ってカズキはその場に座り込んだ。そして、ナンシーとクレアに水を飲ませるために皿を取り出す。

 その態度が信頼の証のような気がして、三人は誇らしげな顔をした。


「土よ! 我が呼びかけに答え、その力を示せ! 【アース・ランス】!」


 開幕はラクトの魔法だった。トロールの目を狙って放たれた魔法は、以前とは比べ物にならない威力で向かっていく。

 そのまま命中するかと思われたが、寸での所で躱された。

 だが、回避が不完全だったため、頬がざっくり抉られている。

 トロールは怒りの声を上げ標的をラクトに変更、そのまま突進してくるが、その進路上にはマイネが待ち構えていた。


「【ファイア・アロー】!」


 マイネの放った炎の矢も目を狙っていた。今度は予想していたのか、足を止めたトロールにあっさりと躱される。

 それは分かっていた事なので、マイネはその間に距離を詰めた。

 そこにトロールが金棒を振り下ろす。

 すさまじい音と共に陥没する地面。砕けたそれは、無数の礫となってマイネを襲う。


「【ホーリーシールド】!」


 だが、それはフローネの魔法によって全て防がれた。


「はあっ!」


 その間も距離を詰めていたマイネが、気合の声と共に剣を一閃。カズキによって魔剣へと変わったその一撃は、金棒を根元から切断した。


「【アース・ランス】!」


 動きが止まったトロールへ、再度ラクトの魔法が襲う。


「GYAAAAAAA!」


 今度は狙い通りに目に命中。トロールは苦悶の声を上げた。

 そこにマイネが接近し、一撃で左足を切断。バランスを崩して倒れたところを、首を刎ねた。


「ふう・・・・・・」

「やったー!」

「やりましたね!」


 ラクトとフローネが歓声を上げる。マイネも手を上げて応えた。


「強い・・・・・・! あれがマイネ先輩の実力」

「先輩だけじゃない。魔法使いも凄かったぞ」


 戦いを見ていた男たちの元へ、フローネが歩み寄る。


「怪我はありませんか?」

「フローネ様・・・・・・」


 装備はあちこちが凹んでおり、武器は折れていた。聞くまでもなくボロボロである。


「今、治療します」


 治療というフローネの言葉に反応して、男たちが騒ぎ出す。


「そうだ! サイガはどうなった!」

「あいつは金棒の一撃をまともに喰らったんです!」

「俺たちは良いから、先にあいつを!」


 口々にそう言う男たちに、フローネはにっこりと微笑んだ。


「あの方でしたら大丈夫です。すでに治癒も済ませました」

「「「ありがとうございます。フローネ様」」」

「いえ、当然の事をしただけですから」


 軽く笑って男たちに治癒を施すと、彼らは助けられた事を感謝しながら引き返していった。


「お疲れ。見事な戦いぶりだったな」


 カズキの言葉に、三人が嬉しそうな顔をした。


「ありがとうございます。ですが、カズキさんの力が大半ですね。魔剣があんなに凄いとは思いませんでした」

「そうだね。魔法の威力も今までとは段違いだった。やっぱりカズキのお陰だよ」


 謙遜するマイネとラクト。


「そんな事ないって。道具は使う人間次第だ。トロールを倒したのは、三人の実力だよ」

「カズキ・・・。恰好良い事言ってるけど、それじゃあ台無しだよ」


 カズキの頭にナンシーが前脚を掛けていた。見ようによっては肩車である。


「気にするな」

「無理だって」


 見れば、マイネは顔を背けて肩を震わせている。


「まあカズキらしいけど。・・・・・・少し休憩しますか?」

「そうですね。思ったよりも疲れているみたいです」

「じゃあ、お茶にしましょう。私が淹れますね」


 フローネはそう言うと姿を消した。


「「え!?」」

「どうした? ――ああ」


 驚く二人に、カズキが説明する。


「【次元ハウス+ニャン】に入っただけだ。フローネは入り口が解るからな」

「どうして?」

「さあ? 勘じゃないか?」

「もしかして、カズキさんが魔法を使ったのを感知してるのでは?」

「そうかもな」

「そうだとしたら凄いね。カズキが魔法を使った事に気づくなんて。僕なんか全然気づかなかったよ」

「私もです」


 カズキたちのせいで目立たないが、フローネもラクトやマイネから見れば、天才の部類に入る。


「実戦はこの学院に来て初めて経験したんでしょ? それにしては肝が据わってるよね」

「顔色一つ変えずにゴブリンを撲殺してたもんな。多分ねーさんの影響だろう」

「なんかそれだけで納得しちゃった。エルザさんも相当強いんでしょ?」

「強いな。完全に防御に回ったら、クリスでも苦戦すると思う」

「そんなに!? ・・・・・・私も修業が足りませんね」

「まあ一番不可解なのはカズキだけど」

「俺? どこが?」

「魔法使いなのに剣の腕がクリスさん並みって時点で意味が解らない」


 それはマイネも疑問に思っていた事だった。


「それは言い過ぎだ。剣でクリスに勝てるわけがないだろ」

「それにしたっておかしいでしょ。こっちに来る前に剣を習ってた訳でもないんでしょ?」

「そうなんですか!?」


 だとしたら、やはりカズキは異常だった。


「二年ちょっとでその腕前・・・・・・。挙句に古代魔法ですか。何をすればそんなに強くなれるのか教えて欲しいです」

「基本はねーさんに教わった。後は毎日クリスと手合わせだな」


 その結果強くなってしまったという事らしい。


「「ただの才能じゃん(ですね)・・・・・・」」


 世の不公平を嘆いている二人が正気に戻ったのは、フローネがお茶の支度を終えたと呼びに来る声が聞こえた時だった。

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