第二百九十六話 カズキ、初めての海へ その4
「おっ! そっちは初顔だな! 俺はアーネストだ! よろしくな! 三人共!」
30分後、ようやく港に着いたアーネストが、沖にいた時と同じく、やたらとデカい声でカズキ達に話し掛けた。
「は、はい。初めまして。カズキ・スワです。こちらこそよろしくお願いします」
「みぃあ」
「みぃあ」
話し掛けられたカズキは、その大声に思わず耳を塞ぐも、目の前の巨漢に好意を抱いた。
理由は単純で、カズキだけではなく、ナンシーやクレア(正式にフローネの相棒になった)の事を個人(個猫?)と認めて挨拶してくれたからだ。それが伝わったのか、ナンシーもクレアもアーネストに向かって挨拶を返しているのが微笑ましい。
「おー、こっちの小っちゃいの(クレアの事)はエリーに似てんなぁ。そうかぁ。エリーも母親になったかぁ。これはお祝いしないといけねえなぁ」
「ミャウー」
「お祝い!」
アーネストの言葉に、エリーとフローネが反応する。エリーはお祝いをしてくれる事への感謝で、フローネに至っては食欲だが。
「ああ、お祝いだ! とはいえ準備に時間が掛かるから、先に保護したマーメイドやトリトンに話を聞きにいったらどうだ? 戻ってくる頃には準備も終わってるだろうしよ」
「それは良い考えね。じゃあ悪いけど、準備は任せるわ」
アーネストの尤もな意見に頷いたソフィアは、お言葉に甘えて領主の館に向かう事にした。同行するのはエルザとカズキで、アルフレッドは料理の手伝い。フローネは手伝いと称したつまみ食いの為、同行しない。
「びっくりしたでしょ?」
館に向かう道すがら、話題は自然とアーネストの事になった。というのも、話が終わった直後にアーネストが体長5メートル程のクジラをヒョイッと担ぎ上げるところを目撃したからだ。
「はい。クジラの中でも小さめとはいえ、5tくらいはありますよね? 魔法ですか?」
自分の知らない魔法のうちの一つだと思ったカズキが質問するが、ソフィアとエルザは揃って首を振った。
「前にクリスが”気合い”とか言ってクジラを持ち上げた事があったけど、その後はぐったりしていたわ。だけどアーネストの場合は昔からあんな感じなのよね。カレン程ではないけど、部分的に祖先の血が出たのかもしれないわ」
「カレンさん・・・・・・。確か第一王女様でしたっけ?」
「ええ。あの子は完全な先祖返りだから、アーネストよりも力があるのよね。まあ、先祖の吸血鬼と違って、血は一滴も飲めないのだけど」
「・・・・・・」
話を聞いたカズキは思った。そんな特殊な血を持つ家系だからこそ、邪神討伐のメンバーに二人も選ばれたのではないかと。
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