第二百九十五話 カズキ、初めての海へ その3
「おっ! かーちゃん達じゃねーか!?」
目的の人物が漁に出ていた事を確認したカズキ達が港で待っていると、沖からそんな声が響いてきた。
まだ肉眼で船が見えるかどうかの距離なのに、向こうは魔法も使わずに波止場にいる自分達を認識したのかとカズキは驚いたが、ソフィア達は平然としていた。後に聞いた話では、アーネストは昔から目が良かったのだという。
「久しぶりだな! 猫たちの飯か!?」
「ええ。街道も安全じゃないから、自分達で運ぼうと思って」
アーネストのようにバカでかい声を出す事が出来ないソフィアは、魔法を使って会話を始める。傍目には海に向かってブツブツ呟いてるあぶない女に見えるが、その事を指摘する人間はこの場にはいなかった。
「そうか! いつもなら直ぐに分けてやれるんだが、今は漁に出ているのは俺だけなんだ! だから少し時間が掛かる!」
「それは仕方ないと理解しているわ。だけど、そんなに海は危険な状態なの?」
「航行していると、何処からともなくサハギンが湧いてくるからなぁ。強さは大した事ねぇが、とにかく数が多いんだ。俺一人じゃあ守れるのは精々自分の船だけだしよぉ。・・・・・・毎日100匹は潰してるのに、何処から湧いてくるんだ? アイツらは」
サハギンは簡単に言うと半魚人だ。普段は海の底に居を構え、マーメイドやトリトンといった人魚族を根絶やしにすべく戦いに明け暮れているような残虐な魔物である。
「それは厄介ね。サハギンはゴブリンの様に生育速度は速いと言われているけど、あなたが毎日退治してるというのなら、襲撃の頻度は少なくなるのが普通だと思うのよ」
「だよなぁ?」
ソフィアはアーネストの戦闘能力を知っている。その類い稀な身体能力(馬鹿力)に加え、加護という、特定の属性の魔法に極めて高い適性を持っているのだ。
アーネストの場合は適性は水属性で、その影響は外見にも表れている。具体的には、髪や瞳の色がその属性の影響を受け、アーネストの場合は青だ。
具体的な加護の内容だが、メリットとしては適性のある属性の魔法の威力増大や消費魔力の減少。デメリットは対抗属性の魔法は覚える事が出来ない事が挙げられる。とはいえ、大半の魔法使いは使えても二つか三つの属性しか使えないので、デメリットだと考える人間は少ない。
何が言いたいのかというと、海という環境に於いて、アーネストに勝てる存在は極めて少ないという事。そして、邪神の復活から半年近く経っている今、サハギンはとっくに絶滅していてもおかしくない程に倒されているという事だ。
「だから、一度サハギンの集落を見てみたいのよね。そこで何が起こっているのかわかれば、魔物が増加している理由もわかると思うし」
「なら、マーメイドやトリトンに話を聞いた方がいいな! サハギンに襲われて避難してきた奴らが、領主の館で保護されているって話だぞ!」
「・・・・・・なんであなたが伝聞系で話すわけ?」
ソフィアは領主の自覚が全くない息子の言葉に呆れ、溜息を吐いた。
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