第二百八十七話 カズキ、魔剣を量産する その1
ゴブリンの群れを蹂躙したカズキは特級の戦力と認められ、度々戦場に立つ事になった。
これによりランスリード国内の魔物の殲滅速度が劇的に上がったが、それに比例するかのように魔物の襲撃が増えているので、状況としてはカズキが戦力になる前と大差がない。
一刻も早く邪神を倒さなければならないのはわかっているが、その為にカズキ、クリス、エルザを旅立たせてしまうと、今度はランスリードが滅亡してしまう。その為、動くに動けない状況が続いていた・・・・・・。
「カズキ様」
そんなある日。魔物討伐から帰ったカズキが城でエルザと食事をしていると、食後のお茶を淹れ終わったメイド長が珍しく話し掛けてきた。
「なんでしょう?」
普段は一歩引いた位置にいて、さり気なく世話をしてくれているメイド長が話し掛けてきた事に軽く驚いていると、
「カズキ様の使ってる食器だけ、手入れしなくても水で流せば綺麗になるのですが、お心当たりはございませんか?」
などと、傍から見れば妙な事を聞いてきた。
「そういえばそんな話を聞いた覚えがあるわね。後でカズキに聞こうと思っていたのに、忙しくて忘れていたわ」
それに真っ先に反応したのは、同席していたエルザである。彼女は料理をしている時、その話を小耳にはさんだらしい。
エルザまで参戦してきた事に気まずそうな顔をしたカズキは、ビクビクしながら事の経緯を話し始めた。
「・・・・・・ちょっと魔法の練習をしながら御飯を食べてました」
「魔法の練習? なんで?」
ここ最近の付き合いから、カズキが進んでマナー違反をする筈が無いのはわかっていたエルザは、窘めるでもなくカズキに話の先を促す。
「魔法を同時に発動できれば、戦いに幅を持たせる事が出来るかと思って。その為に、食事をしながら魔法を・・・・・・」
カズキの言葉に、メイド長とエルザが顔を見合わせる。今の今まで、そんな真似が出来るという話など聞いた事がなかったからだ。
「・・・・・・理由はわかったわ」
だが、カズキは女神直々に選ばれた人間なのでそういう事もあるのだろうと思い、それ以上の追及はしなかった。今はそれよりも興味深い話題があるからだ。
「丁度そこにカズキが使っていた食器があるから、ちょっと見てみましょうか」
エルザはそう言うと、カズキの食器と自分の食器を素早く回収し、厨房へと突撃。そのまま皿洗い用に樽に酌んである水の栓を抜くと、自分が使っていた皿を軽く濯いだ。
「まぁ当然よね」
エルザはそう言うと、少しだけ汚れが落ちた皿を置き、今度はカズキが魔法の練習に使っていた皿、ナイフ、フォークを水で濯ぐ。
「まあ凄い! 本当にこれだけで汚れが落ちたわ!」
その結果ピカピカになった食器を見て、通販番組の出演者の様に大袈裟なリアクションをしたエルザは、急に猫なで声を出し、
「ねえカズキ、これと同じ事を、私の武具にも出来ないかしら?」
と宣った。
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