第ニ百八話 『朱き光』
「やっぱり【テレポート】は良いわねー」
現地に到着するなり、エルザが周囲を見回してそんな事を宣った。
「誰だ!」
とこっちを見て叫んでいる、20代半ばの戦士風の男の事は気にしていない様である。
彼はどうやら、ブロンズランクとアイアンランク(駆け出しのペーペーが相当する。ダンジョンの攻略には行けないので、厳密には冒険者予備軍とでも言うべき存在)の境界を見張っていたようだ。
「隣国のギルドから派遣されたカズキ・スワだ」
そう言ってカズキがギルドカードを見せると、戦士はジッとカードを見て首を傾げた。
「ゴッドランク? そんなの聞いた事もないぞ。カードは本物のようだがな。ああ、俺はミスリルランクパーティ『朱き光』のアントナ・ウセだ。仲間と一緒に境界の監視をしている。よろしくな」
そう言って差し出された手を、カズキは握った。
「さっきも言ったがカズキ・スワだ。仲間は姉のエルザと、師匠(料理)のアルフレッド。ここへはボーダーブレイクの解決に来た」
「解決? そんな話は聞いていないが・・・・・・?」
「聞いてない? うちのギルドからそっちに話が通っている筈なんだが」
アントナ・ウセとカズキが顔を見合わせて、揃って困惑の表情を浮かべる。尤もアントナの方は、話が来ていない事よりも、3人でそんな事が可能なのかという、実力に対しての疑問が大半を占めていたが。
「落ち着きなさい。さっきの今で話が通ってる訳が無いでしょ?」
「あ、そっか」
エルザに指摘されて、カズキはまだ時間がそれ程経っていない事に気付く。下手すれば、まだ連絡をしていないという可能性すらある。
【テレポート】を使う事で境界にどんな影響があるかわからなかった――カズキは境界を空間魔法の一種だと認識している。そこへ同じ空間魔法を使うと、下手すれば境界が壊れると思ったのだ――ため、直接オリハルコンダンジョンへ【テレポート】せず、わざわざ境界のない場所へ移動したのだが、考えてみれば一週間の余裕があったので、別に現地のギルドに移動して、それからここに来ても良かったのだとカズキは今更ながらに気付いた。その場の雰囲気に中てられ、珍しくノリで行動したら失敗してしまったが、あの時はそれが格好いいと思ったので、後悔はしていない。
「じゃあ暫くは待ちか。どれ、ちょっくらこの辺りの食材でも・・・・・・」
アルフレッドがそう言って周囲を見回す。だが、目に見える場所にモンスターはいない。あるのは5~6人が寝泊まり出来そうなテントと、所々に散見される血痕のみだった。
「・・・・・・まあ、安心して休もうと思ったら周囲の掃除くらいするよな。ならアッチだ」
いかにも仕方なさそうな顔(但し、口元は笑みの形に歪んでいる)で、境界へと足を向けたアルフレッドは、アントナの横の通り過ぎようとして――腕を掴まれた。
「いやいやいや! 何で境界を監視している人間の前を堂々と通り過ぎようとするかな! あんたが何者かは知らないが、今は境界内への立ち入りは禁止だ!」
「まあそう固い事を言わずに。食材を調達したら、あんたにも飯を食わせてやるから」
「まあそれなら・・・・・・。なんて言うとでも思ったのか!?」
「ちっ」
懐柔しようとアルフレッドが提案するが、アントナは責任感が強いのか、首を縦に振ろうとはしない。いつボーダーブレイクが起こるかわからない以上、彼の行動は至極真っ当なものだった。
「問題ない。アントナ、行かせてやれ」
こうなったら伝家の宝刀を抜くしかないとアルフレッドが考えた時、テントの方からそんな声が掛かる。
そちらを見ると、朱く輝く煌びやかな鎧を纏った女性が歩いてくるところだった。
「ですが!」
女性に向き直ったアントナが抗議の声を上げようとする。だが女性はアントナをチラリと一瞥するだけで、全く意に介さなかった。
「メンバーのアントナが申し訳ない。私は『朱き光』のリーダー、カトリ・コナー。あなたたちが隣国のギルドから、ボーダーブレイクの解決の為に派遣された、カズキ・スワ。エルザ・アルテミス。アルフレッド・ランスリードのお三方という事でよろしいか?」
「ええ」
ナンシーと戯れているカズキが答える気配がないのを見て、エルザが答える。
「隣国のボーダーブレイクをたった半日で解決した英雄にお会いできて光栄だ。差し支えなければ、ギルドカードを見せて頂きたいのだが・・・・・・、構わないだろうか?」
「いいわよ」
「ああ」
「・・・・・・(ナンシーモフり中)」
「感謝する」
三人分(カズキのカードはエルザが強奪した)のギルドカードを受け取ったカトリは、先程送られてきた情報が書かれた紙と、ギルドカードの情報が一致しているか確認する。
その中で驚いたのは、ボーダーブレイクを半日で解決に導いた人間が、最年少のカズキであるという事実だった。
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