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第百七十四話 フローネ、求婚? される

「ここが空中都市・・・・・・。思ったよりも普通ですね。ランスリードの街中と変わりません」


 カズキの【テレポート】で転移してきたフローネが、感慨深い表情でキョロキョロと周囲を見回しながら、大通りと思われる場所を歩き出す。

 フローネの後に続くのは、【テレポート】を使ったカズキと、アイスドラゴンであるロイス。後はナンシーとクレアが、それぞれの飼い主に抱かれていた。


「そうだな。まあ、まだこの場所が、古代魔法王国時代の空中都市だと確定したわけでもないが」

「いや、ここは間違いなく魔法王国の空中都市じゃよ。儂も何度か来た事がある。だから言うておくが、カズキ殿の【次元ハウス】や、ランスリード城のような設備は期待しない方が良いぞ? そもそも、魔法金属は貴重な物。それを自由に創造出来る、カズキ殿がおかしいのじゃ」

「そうなんですね・・・・・・」


 フローネのテンションが目に見えて下がる。フローネの期待が、自重を止めたカズキによって木っ端みじんに砕かれた瞬間であった。


「それにしても、誰一人慌てた様子がないな。やはり気付いていないのか?」

「どうじゃろうか? 上層部の人間は気付いていて、敢えて住民に知らせていない可能性もあるんじゃないかのう」

「確かに。住民に知られてパニックにでもなったら、目も当てられないか」

「じゃあ、事情を知っている可能性がありそうな人に会わないといけませんね! ロイスさんは知り合いとかはいないんですか?」


 フローネの問いに、ロイスは首を横に振った。ちなみにだが、ここまでの会話はカズキが魔法で外に漏れないようにしているので、誰かに聞かれる心配はない。


「そっか。まあ今回は様子を見に来ただけだし――」

「おい! そこの女!」


 「一旦帰るか」 カズキがそう言おうとした所で、偉そうな声が通りに響き渡った。

 見れば、やたらとけばけばしい服を着た丸々と肥えた白豚が、フローネを指さして近づいてくるところだった。

 人々は関わりたくないのか、白豚を確認した瞬間に、蜘蛛の子を散らすようにその場を後にする。中には、去り際に気の毒そうな顔でフローネを見る人もいた。



「なんだあの白いメタボオークは? 一丁前に服なんか着やがって」

「古代魔法王国では、魔物を飾り付けるのが流行っていたんでしょうか?」

「見た目は確かにオークだが、あれでもれっきとした人間じゃよ。その証拠に、人の言葉を話しておるではないか」


 どう見ても本気で言っているカズキとフローネの言葉を、かなり酷い表現で訂正するロイス。この会話は魔法を使っていないので、遠巻きにしている住人たちに丸聞こえだった。

 自分達が普段から思っている事を、白豚のいる場で平然と口にするカズキ達のせいで、必死になって笑い声を堪える羽目になった住人達。

 幸い、当の白豚にカズキ達の会話は聞こえておらず、また、注意もフローネに向いていたので、彼らが見咎められることはなかった。

 

「平民にしては美しいではないか! 喜べ! 高貴なる魔法王国貴族である私の、栄えある200番目の妾にしてやろう!」

「え、嫌です」


 短い足を必死に動かし、20メートルの距離を一分もかけて歩いてきた白豚(ちなみに汗だく)の言葉に、心底嫌そうな顔をしたフローネが、カズキの背後に隠れながら即答する。


「・・・・・・なに?」


 断られるとは思っていなかったのか、一拍遅れてフローネの言葉を理解した白豚の額に青筋が浮かび、()()()()()魔力が全身から溢れ出す。

 その状況に青ざめた住人たちは、口々にフローネの説得を始めた。


「マズい! オーク卿がお怒りだ!」

「早く謝りなさい! 今ならまだ間に合うわ!」

「オーク卿の御言葉を受け入れるんだ! 2、3年(我慢)すれば帰して下さる!」

「「「ぷっ」」」


 まさか本当に白豚貴族の名前がオークだと思っていなかったカズキ達は、住人たちの不意打ちに思わず吹き出し、俯いて肩を震わせる。


「どうやら事の重大さを理解できていなかったようだな! まあ、私の事を知らなかったみたいだから、余所からここに来たのだろう。どうだ? 私の提案を受け入れるならば、先程の事は寛大な心で不問にしてやるが?」


 メタボオークはカズキ達の態度を”怯え”と誤解したのか、そんな事を言いだす。だが彼は間違っていた。


「やれやれ。古代魔法を使える癖に、相手の魔力量を計る事も出来ないのか。まさかここまで質が低いとは思わなかったよ」

「なんだと!?」


 あからさまに下に見られたメタボオークはカズキの言葉に激昂し、ついに炎の魔法(現代魔法の【インフェルノ】並みの威力。炎の加護を持つマイネよりも数段劣る)を発動する。


「フハハハハハ! 貴様のように舐めた口を利く虫けらは、我が最強の魔法で燃やし尽くしてくれる! ――なんだとっ!?」


 だが、威勢がいいのも最初だけだった。

 絶対の自信を持って放たれたメタボオークの最強魔法(笑)は、煩わし気に振られたカズキの手によってあっさりと掻き消されたのだ。


「魔法制御もなっちゃいないし。これならラクト達の方が遥かに強いな」

「そうですね。まさかここまで弱いとは思っていませんでした」

「仕方あるまい。当時の文明は衰退の一途を辿っておったからの。強い魔力を持つ者など一握りで、後は辛うじて魔法が使える、こんな奴らが幅を利かしていたのじゃ」

「『リントヴルム』が現れなくてもどの道終わってたのか。・・・・・・さて」

「ひっ!」


 自慢の魔法をあっさりと防がれたメタボオークは、カズキの視線を受けて気絶した。たった一発魔法を放っただけで魔力が枯渇寸前な上、上位の貴族(魔力が高い程、爵位も上がる)に因縁をつけてしまったと誤解した事により、緊張が限界に達したせいだった。

お読みいただき有難うございました。

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