第百七十三話 空中都市
タゴサクの騒動から一週間、いつもの猫たちとの日常に戻っていたカズキに、冒険者ギルドのギルドマスターから連絡があった。
相談したい事があるので、都合のいい日に足を運んでくれないかという話だったので、翌日の昼過ぎにギルドに顔を出すと、即座に奥の部屋へ通される。
「巨大な島が、空に浮かんでいる?」
「はい。報告によると、その島は物凄いスピードで移動しているとかで・・・・・・。それだけではなく、どうやら徐々に高度を落としているようなのです」
「それって、ドラゴンが飛んでいるのを見間違えた訳じゃないんですよね?」
新しい食材の話だと思ったのか、カズキと一緒に来ていたフローネが質問するが、ギルドマスターは頭を振った。
「確かにドラゴンが飛んでいれば大騒ぎでしょうが、ロイス殿はそこら辺の事を気遣ってくれているので、今の所騒ぎになった事はありません。一応、各国の上層部と各地のギルドには話を通してありますが」
『リントヴルム』の件は、『邪神』が討伐されたばかりだという事もあって、公にはされていない。知っているのは先程ギルドマスターが言った、各国の上層部と冒険者ギルドの幹部だけである。
万が一ロイスの姿を見られても、『大賢者』の友達なので心配はないと説明する手筈になっているのだが。
この世界の人間は、『大賢者』が関わっていれば、大抵の事は納得してしまう。【テレポート】を開発したお陰で行動範囲が劇的に広がり、行く先々で色々とやらかしている(良い意味で)からだ。
目立つのが嫌だからと、元の世界に戻ったという設定にしていたのは何だったのか。
「では、古代魔法王国時代に存在した、空中都市という可能性も!?」
「そういえば、ロイスがそんな話をしていたな。問題は、今までは存在していなかった物が、何故今になって、突然現れたのかだ」
カズキの魔法を以てすれば、この世界の全てが探知範囲になる。『リントヴルム』の話(正確には、それを封じた『クロノ』というドラゴン)を聞いた時、当然のようにカズキは探知を行ったが、その時には空を移動する島は、影も形もなかったのだ。
「タイミング的には、やっぱり『リントヴルム』関係ですかね?」
「かもな。今まで発見されなかった事を考えると、師匠(時間を操る魔法を使う『クロノ』の事を、カズキは勝手にそう呼んでいるのだ)が関係している可能性もある。・・・・・・という事なので、その島の調査は任せて下さい」
「おお!」
元から依頼を出すつもりだったギルドマスターが、言うまでもなく自分から調査すると言い出したカズキの言葉に歓声を上げる。
もしカズキの興味を惹かなかった場合、どうすれば依頼を受けてもらえるのかわからなかったからだ。
「さて、問題の島は・・・・・・、あった」
既に意識が『時間を操る魔法』に移っているカズキは、そんなギルドマスターの様子にも気付かず、即座に魔法を発動し、そして次の瞬間には発見していた。
「古代魔法を使えそうな魔力を持った人間がそれなりにいて、遺跡で見かけるような建物が完全な形で残ってる。これはフローネの言うように、古代魔法王国時代の空中都市かもな」
「「本当ですか!?」」
期せずしてフローネとギルドマスター(名前はシグルドという)の声がハモる。
これまでに遺跡はいくつか発見されたが、完全な形な上に、居住している人間まで付いてくるとなれば、テンションが上がるのも無理はない。
「それから高度を落としてるって話だけど、これも間違いはないな。このままのペースで高度が下がっていくと、一ヵ月もしないうちに地上に激突すると思う。住人が気付いているのかは不明だが」
「一ヵ月!? そんなに差し迫った事態になっていたとは!」
思った以上にマズい事態に、シグルドの顔から血の気が引く。だが、目の前にいるカズキが取り乱していないのを見て、直ぐに落ち着きを取り戻した。
「・・・・・・カズキ殿に話をしてよかった。我々では高度が下がっている事に気付けても、いつ地上に激突するかまではわかりませんから」
カズキが解決する手段を有していると確信しているかのようなシグルドの物言いに、カズキは苦笑して立ち上がる。
「一度、様子を見に行こうかと思います。今のところは消滅させるしか手段は思いついていませんが、島に行けば他の方法があるかもしれませんから」
「私も行きたいです!」
カズキに置いて行かれまいと、フローネも立ち上がる。作家でもある彼女が、こんな絶好の機会を逃すわけがない。
「ロイスも探して連れていくか。本当に古代王国時代の物なら、一発でわかるだろうし」
「そうですね!」
話をしながら立ち去る二人。シグルドはそんなカズキの後ろ姿に黙って頭を下げ、それから仕事に戻った。
解決に向けてカズキが動き出した事と、今回の件の報酬の相談を、各国の王と話し合わなければならないからだ。
お読みいただき有難うございました。




