第百六十二話 マンティコアとの戦い
森林エリアで首尾良く泉を見つけ、食料の確保も手際良く行ったフローネ達三人は、丸一日の探索の末に怪しげな洞窟を見つけた。
「恐らくだがあそこが出口だろう。これ見よがしに門番がいるからな」
エストがそう言って、洞窟の前に陣取る、ライオンのような胴と人のような顔をもつ怪物を指さした。
「マンティコア、でしょうか? Bランクの」
「初めて見ました。確か魔法を使い、サソリの尾には毒があるんでしたよね?」
「深い森を棲家とする魔物だったな。そういう意味では出てきてもおかしくない魔物なんだが・・・・・・」
話をしながらも、じりじりと近寄っていく三人。対するマンティコアは、その様子をニヤニヤと眺めていたかと思うと、突然魔法を放ってきた。
「っ! 【ホーリーシールド】!」
土で出来た槍を、咄嗟に前に出て魔法で防ぐフローネ。それと同時に上から飛び掛かってきたマンティコアの爪撃をコエンが剣ではじき返し、後ろから襲い掛かって来たマンティコアにはマイネが炎の矢をお見舞いした。
「アレンとの訓練のお陰で助かったな」
「そうですね」
カズキがエルフの森で出会った謎の猫アレンは、魔物で言えばAランク以上の強さを持っていた。
最近は彼との模擬戦も行っていて、その時のアレンは気配を消して死角からの奇襲や、不意打ちの魔法など、多彩な戦い方を披露してくれている。
その時の経験から、三人はマンティコアの奇襲を察知する事が出来たのだ。
「さて、これで全部だったら一人一殺で済むんだが・・・・・・」
そんなエストの期待も空しく、洞窟の奥から更に三体のマンティコアが現れる。
「合計六匹。これは、出し惜しみしている余裕はありませんね」
「そうですね。ここは全力で戦いましょう」
言うと同時にフローネが前方へ駆け出した。
一番防御力が高いフローネが前方の四匹を抑え、その間にマイネとエストが奇襲を敢行してきた二匹を始末する作戦である。
「【ファイア・アロー】!」
炎の加護を持つマイネが、数十にも及ぶ数の炎の矢を一匹のキマイラに向けて発射する。
直前の攻防で受けたダメージにより、マイネの魔法の威力を思い知っているマンティコアは、その攻撃範囲の広さから魔法を使っての防御を選択。前方に土で出来た壁を展開し、その後ろに身を隠した。
「はっ!」
同時にもう一匹へと駆け出したエストは、気合の声を上げながら、足元を狙って剣を水平に振るう。
「ウケケケケ!」
馬鹿にしたような笑い声を上げながら後方に高く飛び退るマンティコアだったが、それはエストとマイネの思惑通りの行動だった。
「【フレイム・ランス】!」
「ギャアアアアア!」
二人は最初から、エストが攻撃した方のマンティコアを狙っていたのである。
空中で咄嗟に魔法を発動する事は出来ないと踏んでの作戦だったのだ。
「こっちは任せろ!」
余りの高火力に一瞬で炭化したマンティコアを横目に、エストがもう一匹へと到達した。マイネが確実に仕留めるとわかっていたエストは、相手にしていたマンティコアが飛び上がった瞬間には、既に駆け出していたのである。
「シッ!」
そして、アレンよりも遥かに劣るマンティコアでは、エストの相手にならなかった。縦横無尽に振るわれる剣を前に防戦一方になったマンティコアは、尻尾を巻いて逃げ出そうとした隙を突かれ、首を刎ねられて息絶えた。
「【ホーリージェイル】!」
マンティコア四匹の足止めを買って出たフローネは、カズキが考案した神聖魔法を使って、一番手前にいたマンティコアを光の牢獄に閉じめる事に成功した。
「【ディバインアロー】!」
続けて、これまたカズキが考案した、聖なる矢を放つ魔法を詠唱。
消費魔力と、術者の力量によって矢の数が増えるその魔法で百本の矢を出現させたフローネは、それを二番目に近くにいたマンティコアに集中させ、相手が発生させた土の壁ごと粉砕した。
一匹を拘束、一匹を仕留めたフローネだったが、戦果を確認している暇はなかった。
一番奥にいたマンティコアがフローネの足元を魔法で泥沼にし、その手前にいたもう一匹が飛び掛かってきていたからだ。
「【ホーリーシールド】! 【エクスプロージョン】!」
「ガッ!」
装備と自身の重みで徐々に沈んでいくフローネだったが、彼女は慌てなかった。
魔法の盾で飛び掛かってきたマンティコアの攻撃を防ぎ、またまたカズキが考案した魔法で自身を中心に周囲に衝撃波を放ち、泥を吹き飛ばすついでにマンティコアも吹き飛ばしたのだ。
「すまん。遅れた」
「お待たせしました」
そこへ、後方の二匹を始末したマイネとエストが合流。
その後は特に波乱も起こらず、あっさりと残りのマンティコアを片付けた三人は、森林エリアを脱出する事に成功した。
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