第百五十九話 勇者シノミヤ、消滅する
「てめえら、このシノミヤ様を前にして、随分と余裕だなぁ、え゛ぇ?」
ジュリアンがカズキに現実を突きつけられ項垂れた瞬間、空気だったシノミヤが突然激昂し、カズキに襲い掛かる。
ナンシーとクレアを抱っこして、両手が塞がっているから楽に仕留められると考えたようだったが、当然、カズキに敵う筈もない。
「ぐぇ!」
一瞬で姿を消したカズキを見失った直後、頭頂部に物凄い衝撃を受け、いつの間にか地面に這いつくばっていた。
「シノミヤ? サイトウじゃないのか?」
「ああ。こいつは――」
カズキに問われ、シノミヤがこれまでに行ってきた所業を語るレオン。
「もらったぁ!」
その話の間にダメージをスキルで癒したシノミヤが、今度はカリムに襲い掛かる。
単純に一行の中で、一番年が若いからという理由だったが、生憎とカリムはただの子供ではなかった。
「えい」
「ぎゃあああっ!」
単調で大振りな剣をあっさり躱すと、右腕を根元からばっさり断ち切ったのである。
「にーちゃん。こいつ弱いよ?」
右腕を失って絶叫しているシノミヤを容赦なく蹴り倒して、カリムは首を傾げる。
テミス村を出て、ソフィアの弟子になる為の王都への旅の途中、カズキが勇者と戦っていた様子を見ていたカリムは、その時の勇者と比較すると明らかに弱いと感じていたのだ。
「確かに。レオンの話の印象だと、もう少し上手く立ち回る印象だったが・・・・・・」
カズキはそこまで話したところで違和感を覚え、改めてシノミヤを見る。そして、直ぐにその原因に気付いた。
カリムが根元から切断した右腕が、何もなかったかのように繋がっていたのだ。
「おっと」
「ちっ」
一同がそれに気づくと同時に、カリムが倒れていたシノミヤから飛び退る。
先程と同様に、不意打ちを狙っていたシノミヤの凶刃から逃れる為だった。
「ウオオオオオ!」
「何やってるんだ、アイツ?」
カリムに避けられたにも関わらず、何故か虚空に向かって雄叫びをあげながら素振りしているシノミヤを見て、カズキ達の視線がレオンに集まる。
「・・・・・・【デスラッシュ】という勇者専用スキルだ。一度発動したが最後、標的が死ぬまで斬撃を放ち続ける危険なスキル、だった」
「ふーん。それを躱されたからああなったのか。途中でキャンセルとか方向転換とかも出来ないみたいだし、スキルを取るのは止めた方がよさそうだな。無くても別に困らないし」
「そうだね」
「だな」
「・・・・・・」
カズキの言葉に、カリムとアルフレッドが即答する。
一人、率先してスキルを取得してしまったジュリアンは、沈黙したままピクリと体を震わせていたが。
「まあスキルはそれでいいとして、コイツはどうするんだ?」
疲労の為か、段々と動きが鈍くなっていくシノミヤを見て、カズキがレオンに勇者の扱いを尋ねる。
「ジュリアンから、勇者を弱体化させる方法があると聞いた。それを――」
「【ブロウアップ】」
レオンの言葉の途中で、シノミヤの体が爆散する。
タゴサクがゴブリンの群れと戦った際に使った、勇者専用自爆魔法【ブロウアップ】。
この世界ではスキル扱いになっているそれを、状況の打開の為にシノミヤが使ったのだ。
「しまった!」
後一歩の所で自爆され、弱体化のチャンスを逃した事を悔やむレオン。
そんなレオンの背後に黒い棺桶が現れ、直後に開いたそこから、何故か五体満足で復活しているシノミヤが斬りかかる。
「させるか!」
咄嗟に反応したのはアルフレッド。一瞬で距離を詰め、レオンを突き飛ばすと、シノミヤをみじん切りにした。
「なっ!?」
突き飛ばされたレオンは、そこで漸くシノミヤに襲われた事に気付き、冷や汗を流す。
「また復活したな。一体どういう絡繰りだ?」
爆発音を聞いた事で顔を上げたジュリアンが、一行から距離を取った場所で再び復活したシノミヤを見て首を傾げる。
「知りたいか? 雑魚ども」
「「「「「・・・・・・」」」」」
カズキ達と戦い始めてから一度も良い所がなかった筈のシノミヤが、何故か上から目線で一同を睥睨する。しかも彼は、一同の沈黙を自分への恐怖だと思っていた。中々の気狂いっぷりである。
「冥途の土産に教えてやろう。勇者の中で最も優れたこの俺、超勇者『ユータ・シノミヤ』様には、他の並勇者どもには発現しなかったスキル、【瞬間蘇生】がある。このスキルと死に戻りの能力の相乗効果により、標的を四六時中攻め立てる事が可能なのだ。いくら貴様等が強くても、死ねば体力、魔力が回復する俺には勝てん! さあ、恐怖に震えるがいい!」
聞かれてもいないのに気分良く俺TUEEEを披露したシノミヤへの返答は、カズキの【ラグナロク】。
話の途中で『お腹すいた』と訴えたナンシーとクレアに速やかに食事を用意するため、手っ取り早く事態を解決しようとシノミヤを消滅させた結果だった。
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