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第百四十一話 その頃の二人

「・・・・・・肉が食いたい」


 カズキ達がファイアドラゴン肉で宴会をしている正にその時、『真・アーネスト号EX』の甲板で、海鮮BBQをしていたクリスが呟いた。

 

「あん? 昨日食ったじゃねえか。寝惚けてんのか?」


 クリスの呟きを拾ったのは、『真・アーネスト号EX』の船長であるアーネスト。世界中の人々から『剣帝』と呼ばれているクリスの兄で、職業は漁師だ。

 

「肉って言っても偶々残ってた、しょっぱくて固い学院の干し肉じゃねえか! しかも一切れ! 俺は美味い肉を腹一杯食いたいんだ! それも今すぐ!」

「手段ならあるじゃねえか。生け簀に入ってボタンをポチれば、カズキの所まで一瞬だ」

「その手があったか! ってアレ? ・・・・・・その場合、今まで働いた分の報酬は頂けるのでしょうか?」


 勢い込んで生け簀に飛び込もうとしたクリスが、ふと我に返る。

 今回、アーネストの手伝いをするにあたり契約書を作成したのだが、報酬に関しては貰える金額だけを見てサインした為、詳しい内容を把握していなかったのだ。


「ああ、もちろん――」


 そこで言葉を止めてニヤリと笑みを浮かべたアーネストを見て、クリスの顔に喜色が浮かぶ。


「――支払わない」


 だが、現実は非情だった。


「っ!」


自分に都合の良い夢を見ていた男ほ、一転、失意のどん底に叩き落とされ、今更のように思った。何故契約書をきちんと読まなかったのかと。

何故、契約書なんて言葉から程遠い兄が、書類を用意していた事に違和感を覚えなかったのかと。

 そして、何故関係ない筈のジュリアンが同席していたのかと。


「正直なところ、俺ぁ契約書なんて面倒な物、必要ないと思ってたんだ。だが、兄貴がどうしてもって言うからよ」


 そう言って、契約書をヒラヒラさせるアーネスト。

 万年金欠病の癖に、衝動的に剣を発注するクリスを見かねたジュリアンが、弟にお灸を据えようと画策した結果である。

 因みに契約内容は、漁で稼いだ収入をアーネストと折半する事(クリスはここだけ読んでサインした)。

 受け取った報酬をジュリアンへの借金返済に充てる事。

 仕事を完遂せずに離脱する場合、報酬は支払われない事。

 その場合、城のクリスの部屋にコレクションしている剣を全て没収し、売却代金を借金の返済に充てる事などが明記されていた。

 

「・・・・・・俺の大事な愛剣たち(コレクション)を人質に取るなんて! 鬼! 悪魔! 人でなし!」

「自業自得だろ。碌に確認もしないでサインしたお前が悪い」

「うぐぅ」


 抗議の声を一刀両断されて、クリスは血の涙を流しながらorz状態に移行した。

 

「で? 一応聞くがどうするんだ?」


 嘆くクリスを余所に、BBQを残らず平らげたアーネストが(答えのわかりきった)質問したのは、たっぷり一時間が経過してからだった。


「残る以外に選択肢が・・・・・・ん?」

「お?」


 肉への未練を断ち切ったクリスが、アーネストの質問に答えようと顔を上げたその時、船の進行方行から数キロ離れた場所に、突然、巨大な魔力を持った存在が現れ、クリスとアーネストは顔を見合わせた。


「・・・・・・『門』が開いたのか?」

「その可能性が高ぇな。あの辺りには島も何もないし、近くに航行している船もねぇから、今すぐ脅威になる訳じゃねぇが・・・・・・」


 事前に『真・アーネスト号EXレーダー』(ジュリアンが昏倒したマジックアイテム)を使い――機能を制限すれば誰でも使えると、後でカズキから教わった――、周辺海域の安全を確認していたアーネストが立ち上がり、呟く。

 

「見つけちまった以上は仕方ねぇよなぁ」


 そして、操舵室へと移動した。


「兄貴! 早く!」


 一方のクリスは、何故かやる気満々で舳先へと移動している。

 異世界産の食える魔物をカズキか冒険者ギルドに持ち込めば、良い値段で買い取ってくれると思ったからだ。

 

「ヒャッハー! 汚物は消毒だー!」


 だが、クリスの呼びかけに対するアーネストの反応は、考えられる中でも最悪のものだった。

 そこに『真・アーネスト号』の仇を見つけてしまったアーネストは、既にバーサークしていたからだ。

 

「死ねやぁ!」


 最大船速であっという間にヒュドラとの間合いを詰めた『真・アーネスト号』から、カズキの最強魔法(マジックアイテムの)【ラグナロク】が放たれると、ヒュドラとその背後に発生していた『門』が、諸共に消滅する。

 

「ふう、スッキリしたぜ」

「チッ、ヒュドラか」


 後に残ったのは、妙に清々しい笑顔を浮かべたアーネストと、苦虫を嚙み潰したような表情のクリスだけだった。

 クリスもまた、ヒュドラには煮え湯を飲まされているからだ。自業自得だが。


「・・・・・・にしても、ヒュドラが通れるような『門』が突然現れるなんてな。なんか段々、現れる魔物が強くなってる気がするんだが」


 異世界から帰還し、すぐに漁に出たクリスやアーネストにも、世界各地で開く『門』の情報は共有されている。

 その報告の中に、ヒュドラクラスの魔物が現れたという情報は今までになかった。


「噂の『リントヴルム』のせいかもな。確か、復活が近いんだっけ?」

「らしいな。時間が止まっているのに復活するってのが、今一納得出来ねぇんだが」


 剣を構えながらクリスが言うと、アーネストもマジックアイテムのボタンに手を掛けたまま応える。

 『門』ごとヒュドラを葬り去ったのに二人が警戒を解いていないのは、『真・アーネスト号』の周囲に無数の『門』が出現したからだった。

お読みいただきありがとうございました。

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