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第百三十四話 時を止める魔法

「『リントヴルム』・・・・・・? 聞いた事がないわね。誰か知ってる?」


 エルザに問いかけられた一同は、揃って首を横に振った。


『知らぬのも無理はない。『リントヴルム』とは、儂らドラゴンが付けた名じゃからな』

「でも、ヒュドラの事は文献に残っていたのに、『リントヴルム』に言及がないのはどうして?」

『簡単な話じゃ。進化した直後に、件の空中都市は奴に呑み込まれた。じゃから、文献も残っていないのじゃ』

「じゃあ、数百人を犠牲にして、ヒュドラを封印したって話は?」

『少なくとも儂は知らん。何しろ、完成した封印の魔法を使う間もなく、空中都市は『リントヴルム』に呑み込まれたからの』


 ヒュドラの様子を監視する為、真上に空中都市を移動させていた事が仇になり、そりゃあもうあっさりと滅ぼされたらしい。


「という事は、ヒュドラを封印する為の準備って・・・・・・」

『うむ。全て無駄になった。その結果、儂らドラゴンに全ての皺寄せがきたのじゃ』


 そもそも、ヒュドラが現れた時点でドラゴンに協力を仰いでいれば、『リントヴルム』が誕生する事もなかった。だが、魔法王国時代の人間――上は国王から、下は一般人に至るまで――は無駄にプライドが高い上に、他種族を下に見ていた為、協力を仰ぐなど考えもしなかったのだという。


「能力もないのにそんな調子だったのなら、古代魔法王国が滅んだのも当然の話ね。・・・・・・それで? 『リントヴルム』に襲われたあなたたちドラゴンはどうなったの?」

『若いドラゴンが血気に逸って奴に挑み、その全てが奴の腹に収まった。その結果、奴はますます強くなってしまったのじゃ。それで危機感を覚えた儂らは、徒党を組んで奴に対処する事にした。このままでは、種が絶えてしまうからじゃ』


 当時、この世界ではドラゴンは個体として最も強力な存在だった。そのため、彼らは群れを作る必要がなかったのだ。


『とはいえ、集まろうにもそれぞれの棲家は遠すぎた。その間にも『リントヴルム』に捕食される同胞が相次ぎ、結果的に合流出来たのは五頭。その頃には、どう足掻いても勝つ見込みはなくなっておったのじゃ』


 そこで彼らは、空中都市から命からがら逃げだしてきた人間たちに倣い、『リントヴルム』を封印する事にした。


『中心になったのは、特殊な魔法を使う事が出来るドラゴンじゃ。儂を含めた他の四頭は、そのドラゴンが魔法を完成させるまでの時間を稼ぐ役割を担った。その時に負った深手のせいで、千年にも及ぶ時間を休眠する事になってしまったわけじゃがな』

「特殊な魔法?」


 エルザにドラゴンとの会話を任せ、猫たちとじゃれていたカズキが、『特殊な魔法』という素敵ワードに反応する。


『うむ。時間を操る魔法じゃ。その魔法を使って『リントヴルム』の時間を止める事で、封印の代わりにしたのじゃ。確実に成功させるために、自分の体ごとな』

「時間を止める事まで出来るのか。しかも、悪魔が使っていた、自分以外の時間の流れを遅くする魔法の上位互換・・・・・・。いいね」


 時間を操る魔法の研究は、カズキの能力を以てしても、遅々として進んでいなかった。

 それを使えた悪魔たちは、一匹の例外もなく敵対的だった上に、カズキの怒りに触れたお陰で根こそぎ滅ぼされている。

 悪魔がいた世界に行けばその理由がわかるかもしれないと考え、『時空の歪み』を通って足を延ばしてみても成果はなし。

 ならばと他の世界にも足を延ばしてみたが、やはり収穫はなかった。


「でも、そのドラゴンを保護すれば、時間を操る魔法を教えて貰う事も可能なはず。そうすれば、仕留めた直後の新鮮な魔物肉をいつでも食べる事が可能になる!」


 いつになく燃えているカズキ。言うまでもなく、それは猫の為だった。 

 他の氷系の魔法よりはマシだが、【コキュートス】で凍らせた肉を解凍すると、僅かにだが味が落ちる。カズキは常々、それを申し訳ないと思っていたのだ。


「良し! 善は急げだ! 早速、『リントヴルム』を封印しているという、師匠の許へ案内してくれ!」

『おっ、おう。・・・・・・どう説得すれば『リントヴルム』と戦ってくれるのかわからんかったが、何故だか物凄くやる気じゃのう。報酬として、儂らが集めた財宝を考えておったんじゃが』

「カズキは金には困っていないからね。・・・・・・それはそうと、財宝の話をもっとkwsk!」

『こっちは即物的じゃったか。・・・・・・まあ、儂らよりも強い存在が同時に二人一緒に現れる事なんて、これから先ないじゃろうし、あったとしてもこの程度の対価で引き受けてくれるような人間とも限らん。そう考えれば安いものじゃ』


 手付けとして渡した財宝の一部を掲げているエルザを横目に、ドラゴンは逸る気持ちを押し殺しているカズキへ視線を向けた。


『さて、『クロノ』の居場所じゃが・・・・・・』

「『クロノ』? それが師匠の名前なのか? 如何にも時間を操りそうな名前だな!」

『何故『クロノ』を師匠と呼んでいるのかはわからんが、先に謝らせてくれ』

「・・・・・・何を?」


 謝るという言葉に身構えたカズキに、目の前のアイスドラゴンはなんとも間抜けな答えを返した。


『すまん。封印された場所がわからん』


 と。



お読みいただきありがとうございました。

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