第百五話 相変わらずな二人
カズキ達の視線の先で、二人の男が魔物相手にやりたい放題していた。
一人は長剣を持った金髪の男で、魔法を使えない筈なのに空中を歩き、無数にいるキマイラを片っ端から切り捨てている。
「おらぁ!」
もう一人は魔法で創り出した氷の銛を力任せにぶん投げ、魔法で展開した盾ごとキマイラを爆散させるという離れ業を苦も無く行っている、青みががった金髪を地肌が見えるくらいに刈り込んだ筋骨隆々な男。
共にランスリードの王子で、剣を持った方は『剣帝』と称されるクリストファー。
もう一人は『真・アーネスト号』という、世界最強の漁船の所有者で、職業は漁師のアーネストである。
「相変わらず無茶苦茶やってるな、あの二人は」
二人以上に無茶苦茶やっている人間が、自分の事を棚に上げてそう発言した。周りからのもの問いたげな視線が向けられても、当のカズキはどこ吹く風である。どうやら、自覚がないらしい。
「魔法で海水を凍らせて、それを武器として使っているのか。その発想はなかったな・・・・・・」
「魔力がかなり減ってるようだから、最初は私たちと同じように力押しをしたんでしょうね。それが通用しなかったから、今の形に変えたんだわ。・・・・・・悔しいけど、対応力はアーネストの方が上ね」
「ですね」
アーネストの戦い方に刺激を受けたのか、ジュリアンとソフィアは、この世界での戦い方について、激論を交わし始める。
「極めれば空中も移動できるのか・・・・・・」
「前に海面を自由に移動してたけど、今度は空中かぁ。にーちゃんも出来るのかな?」
「アーネスト殿下のように一人でキマイラの群れを相手にするのは無理ですけど、協力すれば近い事は出来そうですね」
「カズキさんに教わった合体魔法とか? 丁度、相手もキマイラですし」
「その手があったか! 最近は神話級の事ばかり考えてて、すっかり頭から飛んでましたよ」
他のメンバーも同様に刺激を受けたのか、クリスの動きを必死で追いかけたり、アーネストの魔法の使い方を見て、参考に出来る所は真似しようと、意見のぶつけ合いを始める。
完全に復調した彼らの騒ぎは、追加で現れたキマイラが全滅するまで続いた。
「それで? どうしてこんなところにいるんだ?」
『真・アーネスト号』の甲板で、魚は飽きたと駄々をこね(一か月近く魚介類しか食べていなかったのだ)、見事ワイバーンとロック鳥にありついたクリスが、肉を口に運ぶ手は止めないまま、そんな質問をしてきた。
「それはこっちが聞きたい。そもそもの話だが、クリスはここが何処だかわかってるのか?」
「魔の海域だろ? 運悪く入り込んだ船が、消息不明になるって噂の」
カズキの質問に、ツッコミどころ満載の返答をするクリス。
魔の海域とは、クリスが言った通り、そこを通過しようとした船が悉く行方不明になるという、地球におけるバミューダトライアングルのようなものなのだ。
「・・・・・・何で船が消息不明になるのを知ってて、魔の海域に来る? アーネストが、『俺様の真・アーネスト号なら、魔の海域なんて襲るるに足らず』とかなんとか言ったのか?」
「流石は兄貴、見ていたかのように言うな」
ジュリアンの推測を、クリスが肯定する。魔の海域に突入する直前に、アーネストは全く同じことを言っていたのだ。
「アーネストの蛮勇のお陰で魔の海域の謎が解けたな。どうやら、魔の海域と呼ばれる場所は、この異世界への入り口だったらしい」
港町リーザでアーネストを探した時、カズキが捕捉できなかった理由が判明した。
聞けば、クリスとアーネストは三日程前に魔の海域に突入しているので、元の世界をいくら探しても見つかる筈もなかったのだ。
「生還したという話を聞かないのは、迷い込んですぐに、魔物の襲撃を受けたからのようね」
漁をしているアーネストとアルフレッド、周囲に沈んでいる船の残骸を見ながら、ソフィアも相槌を打つ。
「間違いなくそうでしょうね。キマイラに襲われたのか、他の魔物に襲われたのか・・・・・・。お前たちはここへ来て三日だというが、襲撃されたのはさっきのが初めてか?」
ジュリアンの問いに、クリスは首を振った。
「いや? ここに来た直後にキマイラに襲われて、船の残骸を調べている時にキマイラに襲われて、漁をしている時にキマイラに襲われた。最初の襲撃は一匹だったが、回を重ねる毎に数が増えていって、あれだけの数で襲ってきたのは今回が初めてだ」
「そうか」
「こっちはそんなところだが、そっちはどうなんだ? なんで異世界? に皆がいる?」
「それはだな・・・・・・」
ジュリアンの説明を聞いたクリスが食いついたのは、カズキが創り出した【次元倉庫】と、【コキュートス】が付与された包丁だった。
それがあれば、カズキがいなくてもワイバーン退治の依頼を受けられる(ワイバーンの肉は、一日経つと急速に腐敗が進行してしまう為、幻の高級食材と呼ばれているのだ)から、というのがその理由である。
「あのー、わたくしにもそれを頂く事は・・・・・・」
【次元倉庫】欲しさに、卑屈な態度をとるクリス。金の為なら、プライドを捨てる事も躊躇わないのが、クリストファーという男なのだ。
「じゃあ手伝え」
「はいっ! わかりました!」
カズキの言葉に即答するクリス。
「カズキ! クリスさん!」
『真・アーネスト号』にラクトの声が響き渡ったのは、その直後の事だった。
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