第百三話 異世界探索
謎の穴を降りて調査を始めようとした矢先に、ゴブリンエンペラー率いるゴブリンずに襲われたカズキ達。
返り討ちにしたそれらの死体を全て焼却処分すると、降り立った場所が広大な空間になっていて、そこから四方に道が続いている事が明らかになった。
「とりあえず、この階段は消しておくか。俺たちが探索している間に、この階段を上って、魔物が地上に溢れるのもアレだし」
カズキがそう言って、魔法で作り出した螺旋階段を消去する。
魔法で強引に広げた穴から底を見た時、とても飛び降りれる高さではないと、階段を用意したのだ。
「でも不思議ね。地下にこれだけ広大な空間があるのに、どうして今まで崩落しなかったのかしら?」
エルザの疑問に答えたのは、空間魔法で倉庫だの家だのを創りまくり、『時空の歪み』へ何度も足を運んでいるカズキだった。
「空間が歪んでるからだよ。上にあったのは『時空の歪み』と一緒で、別の世界への出入り口なんだ。まあ、『次元屋』の地下にあるのとは違って、色んな世界に繋がってる訳じゃないみたいだけど」
「ふーん。要は【次元ハウス+ニャン】と同じって事?」
「その認識で間違ってないと思うよ」
姉弟の呑気な会話に、戦慄の表情を浮かべたのはソフィアとジュリアンだった。
「別の世界って事は、悪魔みたいな存在がいる可能性もあるのよね・・・・・・?」
「・・・・・・はい。滅多に現れない筈のゴブリンエンペラーがいきなり襲い掛かってきましたし。巨大ワイバーンやロック鳥の出所がここだと考えると、それ以上の存在がいてもおかしくないかと」
自分達が立っているこの場所が、想像以上に危険な可能性が出て来た事に、顔が強張る二人。
「さて、これからどうする? 道が四つある事だし、手分けして探索するか?」
そんな二人に気付かず、耳を疑う様な発言をしたのは、案の定、カズキだった。
「無茶言うな。一人で探索してる時に、今回と同規模のゴブリン軍団が現れたとしたら、私たちの実力では対処できないぞ」
「そうか? 頑張ればイケるんじゃね?」
カズキの言葉に考え込むジュリアン。だが暫くして、首を振った。
「・・・・・・確かに頑張ればイケるかもしれんが、そこで魔力が尽きる。その後に新たな魔物が現れたら、そこで詰みだ」
「「「あ、頑張ればイケちゃうんだ」」」
疲れや魔力切れ寸前の状態で話を聞いていた若手たちが、ジュリアンの返事に絶句する。
自分達が苦労して倒した、キング率いるゴブリンの群れ。しかも、事前にカズキがエンペラーを倒してくれたからこそギリギリで戦えたそれを、エンペラー込みで倒せるというその言葉に、驚きを通り越して呆れの感情が湧いたのだ。
「そういう訳で、手分けして探索するのは無しだ。一回戦闘をして、【次元倉庫】で一日休んで、なんてやっていたら、何日掛かるかわからないだろう?」
「それもそうだな。みんなで行動して、交代で戦った方が、結果的には早いか」
手分けして探索するという自分の案に、そこまで拘りを持っていたわけではないカズキは、ジュリアンの提案をあっさりと受け入れる。
若手の回復を待って動き始めたのは、それから三十分後の事だった。
「じゃあどっちに進む? どの道を進んでも、魔物がいるのは変わらないけど」
「わかるのか?」
「なんとなく? ――どうやら元いた世界とは法則が変わるのか、別の世界だと探査系の魔法が阻害される事が多いんだよな。攻撃魔法とか防御魔法には影響ないんだけど」
「そうなのか? 興味深い話だが・・・・・・」
その先の言葉を、ジュリアンは口に出さなかった。
『何故そんな事を知っているのか?』などと聞いたところで、『実際に行ったから』と返ってくるに決まっている。
大方、チOオちゅーるを調達しに『時空の歪み』へ行った時、好奇心に駆られて別の世界を覗いてみた、という所だろうか。
「キマイラだ!」
話をしながら歩いていたら、いつの間にか最後尾を歩くことになっていたカズキとジュリアンの耳に、ラクトの緊迫した声が聞こえてきた。
「またAランクの魔物か。ワイバーンに始まって、ロック鳥、ゴブリンエンペラー、そして今回のキマイラ。魔物の、特に高ランクの魔物の生態は謎に包まれているが、元々はこの世界の生まれなのか?」
ソフィアとエルザが先頭付近を歩いている事を知っているジュリアンは、キマイラが出たという声を聞いても全く動じなかった。
邪神を倒した英雄(変態とも言う)の内の一人に数えられているエルザは言うに及ばず、ソフィアにとってもキマイラは怖い存在ではない。
ジュリアンにも言える事だが、古代魔法を覚える以前と現在とでは、保有する魔力量、制御力が桁違いなので、キマイラの一匹や二匹、どうとでもなってしまうのだ。
「やった!」
事実、一匹で行動していたキマイラは、ソフィアの魔法によって、接敵する前に跡形もなく燃え尽きる。
しかし、キマイラはその一匹だけではなかった。ソフィアが放った【レーヴァテイン】の爆音を聞きつけたのか、群れをなしたキマイラが、進行方向から押し寄せてきたのである。
「ジュリアン! カズキ!」
二人の名を呼びながら、迎撃の為にソフィアが再び【レーヴァテイン】を放つ。数の多さを考慮して、今回は二つ同時に発動したのだが、複数のキマイラがそれぞれに作り出し、幾重にも重ねられた氷の盾によって完全に防がれた。
「キマイラが群れるだけでも厄介なのに、それが全部魔法を使うタイプだとは・・・・・・。別行動をとらなくて、本当に良かった」
自分の魔法もソフィア同様に防がれたジュリアンが、最終的に数百は集まったキマイラの群れを、たった一発の魔法で消滅させたカズキを見て、やはり自分の判断は間違っていなかったと安堵の息を吐いた。
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