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第百二話 若手の通知表

「【レーヴァテイン】!」


 フローネが神聖魔法を使って魔物の群れを足止めしている間に、詠唱を完了したマイネが魔法を解き放つ。

 炎の加護のお陰で威力を増した【レーヴァテイン】が、押し寄せる無数の魔物の三分の一程度を灰へと変えたが、それでも魔物の行進は止まらなかった。


「【コキュートス】!」


 最初からその展開を予想していたのか、次に魔法を放ったのはコエン・ザイム。

 ランスリードの隣国、ザイム王国の王族だが、王位継承権が百五十位とかなり低い(権力的には男爵程度)ため、学院に入学して冒険者として身を立てようとしているナイスガイである。


「【トール】!」


 コエンの魔法で更に魔物の数が減ったところに、駄目押しとばかりに【トール】を放ったのはラクト・フェリン。

 彼は世界中の王都に店舗を構える『次元屋』の跡取り息子なので、なんちゃって王族のコエンよりも、世間的には重要人物である。

 

「「後は任せろ!」」


 三人の魔法使いの神話級魔法三連発により、大分数が減った魔物。だが、その群れの後方にいて、手下を盾にしたお陰で全く傷を負っていないリーダー格の魔物四匹に向かって、剣士風の青年と、魔法戦士風の少年が、息を合わせて突撃した。

 青年の名はエスト(無印)。少年は、邪神を倒して世界を救った英雄、その内の二人を姉と兄に持ち、残りの一人は従兄という、世間的に見ればスーパーエリートと言っても過言ではない家柄出身(実際には農家)の、カリム・アルテミス。

 ついでに紹介しておくと、最初に魔法を放ったマイネ・センスティアは、ランスリード王国の公爵家の跡取りで、フローネに至ってはランスリードの第二王女だった。


「【フィジカルブースト=アジリティ】!」


 昨日、巨大ワイバーンを相手にした時にも使った魔法を今日も使い、リーダー格の魔物の内、手前にいた三匹に挑みかかるカリム。

 魔法で強引に上げたスピードに物を言わせ、三匹の中央にいた魔物を、反応できない内に瞬殺する。


「エストにーちゃん!」

「おう!」


 その隙をついて、一番奥にいた、一際強そうな魔物に接敵したのはエスト。

 カリムはそのまま、残った二匹と剣を交え始めた。

 彼等が戦っているのは、キングに率いられた、千匹近くのゴブリンの群れ。

 何故そんな事になっているのかと言えば、昨夜カズキが発見した、謎の穴を降りたところで取り囲まれたからである。


「ラクトとコエンは、使える神話級の魔法が順調に増えていますね。母上の教えが良いからでしょうか?」

「二人の努力の結果よ。でも、Sランクを目指すのなら、そろそろ体力的な事も考えないといけないわね」

「大きい魔法を使ったら、暫くは行動不能になりますからね。マイネは炎の加護があるせいか、他の系統の魔法が苦手なようです。それもあって剣に手を出したのでしょうが・・・・・・。折角水以外の適性があるのにもったいない」


 既に自分のノルマを達成したジュリアンとソフィアが、必死で戦う若手の戦いぶりを見て、教師の目線で話合いをしていた。

 ちなみに、彼らのノルマは周囲を取り囲むゴブリンずを大雑把に四分割し、そのうちの二か所を一人ずつ担当する事で、穴を降りて早々に達成している。

 共に、古代魔法の神話級を一発撃って終わりであった。

 残る一か所はエルザの担当で、カズキ謹製の【コキュートス】の魔法が籠められたマジックアイテムを使って、やはり一撃で終わった。


「エストは着実に剣の腕が上がっているわね。一対一なら、ゴブリンキングも最早、彼の敵ではないみたい」


 ソフィアの言葉どおり、程なくエストがゴブリンキングを切り捨てる。自在な剣技で翻弄し、全く危なげない勝利であった。


「このままいけば、うちの騎士団の隊長クラスまでは成長するでしょう。後は格上との実戦経験を積んで、魔力を操る事が出来れば、Sランクも見えてくるかと。最近はうちの騎士団でも魔力を操る事が出来る者も増えています。クリスやカズキ、後は・・・といった、一部の変態だけの所業ではなかったのは幸いでした」


 ここ最近、立て続けに起こった世界の危機(一般には知られていないが、悪魔の侵攻とか)のせいなのか、戦闘職にある者達に、魔力を操る事が出来るようになった者が増えているのだ。


あの人(セバスチャン)とか、アルフレッドとか、うちの騎士団長とか、幼い頃から天才とか神童とか呼ばれてきた、人類最強クラスばかりだけどね。まあ、クリスやカズキ、・・・と比べれば、一般人の部類には入るのかもしれないけれど」


 そんな話をしているジュリアンとソフィアも、当然のように修得している。古代魔法を使用する時の感覚に近いので、真っ先に修得したのはこの二人だったのだが。


「カリムとフローネはどうなの? さっきから、全く話題に上がらないんだけど」


 ジュリアンとソフィアが報復を恐れ、敢えて言葉を濁した一部の変態の内の最後の一人、エルザが話に加わってきた。

 万一の事を考えて、ノルマを達成した後は、若手の戦いぶりを見守っていたのだが、カリムがゴブリンロードを倒した事で片がついたので、会話に参加しに来たらしい。

 カズキはゴブリンエンペラーを倒した後は(エンペラーの強化を受けたゴブリンずの相手は、若手には厳しいとジュリアンとソフィアが判断を下したため)、ナンシーやクレアのブラッシングに没頭していた。

 

「フローネは切っ掛けがあれば完全に魔力を操れるようになるだろうから、特に言う事はないわね。カリムは・・・・・・」

「剣と魔法、両方ともバランス良く、というか信じられない勢いで成長しているな。神話級並の難易度である、【フィジカルブースト】をいつの間にか使いこなしているし、剣は・・・・・・正直な所、よくわからん。なんであんな急激に上達したんだ? 常軌を逸していると言ってもいいレベルだぞ?」


 どうやら、ジュリアンから見ても、カリムの成長速度は異常らしかった。

 剣を握ったのは王都に来てからなのに、幼い頃から鍛錬を重ねてきた、エストやマイネでも油断すると負けるレベルにまで、僅か二か月程で成長してしまったのである。


「当然よ。なんたって、私の弟なんですから!」


 それに対するエルザの答えを聞いて、何故か納得してしまった、ジュリアンとソフィアであった。

 

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