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日々

世界各地で発生した、およそ常識では有り得ないはずの途轍もない<衝撃波>は、実に地球の表面の九十八パーセントを舐め尽くし、それまで人類が営々と築いてきた文明のすべてを、薙ぎ払い、打ち払い、破壊し尽くした。


この未曽有の大災害による死者は九十七億人に上り、総人口の約九十七パーセントの命が喪われたのだった。僅かに生き延びた者達は、たまたま地下街などにいて、かつ、生き埋めにならずに地上へと戻れた者や、周囲を高い山に囲まれていたことで衝撃波が減衰し、建物は倒壊したものの人体そのものまでは破壊されずに済んだ、小さな集落に住んでいた者などがほとんどだった。




その大災害から三ヶ月後、ただ瓦礫の荒野と化した街跡で、吉佐倉(よざくら)綾乃(あやの)、アリーネ・エンデ・カシキ、エレーナ・シュミット、シェリー・バーグソン、くりさきみほの五人は、それでも人間として暮らしていた。


黒い怪物が残した小屋などを上手く活用し、アリーネが中心になって、そこに綾乃達も協力してさらに改修し、それまで別々になっていた<リビング>、<寝室>、<風呂>、<トイレ>を覆う屋根をかけて一つの建物とし、さすがに災害前のそれに比べれば雲泥の差ではあっても、同時に<避難生活>と言うにはそれなりに文明的な暮らしができていた。


夜、子供達が寝静まった後、それを穏やかな表情で見守る綾乃に、アリーネが問い掛ける。


「ミホの具合はどうでスか……?」


すると綾乃は、子供達を起こさないように、囁くような声で、


「元の記憶が戻る気配もないですね……」


と応えた。


幼いみほちゃんは、あまりのことに現実を受け止め切れなかったらしく、自身の記憶を作り変えてしまっていた。本来の両親のことはまったく覚えていなくて、綾乃を母親と認識し、しかも自分が生まれた時から世界はこの状態だったと、認識がすり替わってしまっているらしい。


だが逆にそのおかげで、今は元気にしている。


エレーンとシェリーも大変なショックを受けていたが、明るく朗らかなみほちゃんを見ているうちに少しずつ落ち着きを取り戻し、今は辛うじて平静を保てているようだ。ただこれも、彼女達はまだ、世界がどうなってしまっているのかを理解できていないからというのもあると思われる。


今後、自分の本来の家族の安否も含めて事実を知っていくことで、さらにショックを受けるのは避けられないだろう。


それを思うと、綾乃の表情が曇る。


彼女自身、心が壊れてしまいそうになるのをギリギリのところでもちこたえているだけという感じか。


「私達、これからどうしたらいいんでしょう……」


絶望そのものが言葉となって漏れ出たようなそれに、アリーネは応える。


「アヤノ。起こってしまったことをいくら嘆いても時間は元には戻りまセンよ。私達は生きていまス。ミホ達も生きていまス。生きて、生きて、死ぬまで生きるのが生きている者の務めでス。大丈夫。サバイバルならお手の物でス。私に任せなサイ…!」


そう言って胸を張るアリーネに、綾乃は苦笑いを浮かべながらも、頼もしさを感じていた。


いろいろとわだかまりもあるものの、確かにアリーネの言う通りだと思った。


「そうですね……きっと神河内かみこうちさんが私達を守ってくれたんでしょう……だったら、彼の分まで生きなきゃですね……」


呟くように、自分自身に言い聞かせるように、辛うじてそう口にした綾乃の目に、涙が光っていたのだった。



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