報復攻撃
発電機用のガソリンは、ガソリンスタンドまで行かなくても、破壊された自動車のガソリンタンクが無事なものから抜き取れば簡単に手に入った。吉佐倉さんはそういうことには詳しくなさそうだけど、軍人でサバイバル技術も持ってるアリーネさんがいれば大丈夫だろうな。
都市ガスについては、大地震などが発生した場合に自動的に供給をストップするシステムが働いて大本で止められてしまってたみたいだ。でもそれはむしろ大きな火災を防ぐことに役立っていたと思う。
加えて、この辺りで発生した火災については、僕が触角で察知し、大きなものになる前にすべて鎮火していた。火の点いたままの燃料を吸い込み、後は砂を掛けたりして。
なので、遠く離れたところでは火災が発生してそれが大規模な延焼を引き起こしたりもしつつも、吉佐倉さん達のところは安全だったんだ。
こんな感じで、たった五人で、誰かに物資を奪われる心配もほぼなく安全に独占できるんだから、もうすでに生き延びられる環境は整っていると言えなくないんだろうな。
要するに、僕が心配性なだけなんだろう。
加えて、軍人の、いや、既に彼女が所属していたアメリカ海軍は<軍>としての機能は失われていたので元軍人ということにはなるんだろうけど、アリーネさんがいれば、サバイバル生活には何の心配もない気もする。
当のアリーネさん自身も、ほぼ復活したようだし。
ちなみに、上空を駆け回って確認したけど、世界中の軍隊も、地下に施設が設けられていた基地などでは生存者もいた。ただ、指揮系統が完全に破壊されたことで現状を把握することに全精力を費やしている状態みたいだね。
もっともそれさえ、地上設備は完膚なきまでに破壊されていたこともあって、遅々として進まない状態だったみたいだけど。
生前の僕が案じたように、『敵国からの攻撃を受けたのでは?』との憶測も飛び交ってたところもあったのは触角を通して聞こえたけど、それにしてもあまりにも状況が異常過ぎるということで、逆に冷静になったようだ。
それでも一部の国では報復攻撃を行おうといきり立ってたところもあったものの、実際には既にそのための施設が機能せずに未遂に終わっているみたいだし、例外的にミサイルなどの発射に成功した事例も、当のミサイルそのものが不具合を起こして墜落するという有様だった。
中には、僕が叩き落としたものもある。
つまり、確実に動作する高性能なミサイルなどを完璧に整備できるほどのしっかりした軍事力を持った国の軍隊は冷静に状況把握に努め、それができないような脆弱な体制の軍は報復攻撃に踏み切ろうとしても殆どが失敗に終わったということかな。
なお、海中に潜航中だった潜水艦、および宇宙ステーションや人工衛星なども無事だったみたいだけど、人工衛星が無事だったことで軍用の衛星通信の一部が機能したことも、冷静さを保つことに一役買ったみたいだね。
なにしろ、そのおかげで、敵と想定していた国の方もほぼ機能を失っていることが分かったから。
つまり、今回のこれが<攻撃>だとしても、敵として想定していた相手側も同じような被害を受けていると判断できる以上は、まったく別の勢力からの攻撃であると見做すのが相応だという判断だったみたいだ。
もっとも、それが果たして何者の攻撃であったのかを知ることができた勢力は一つとしてなかったけどさ。
そんなこんなで、時間の経過と共にこれは未知の自然現象による<災害>との認識も広まっていった感じか。
いずれにせよ、幸か不幸かすぐさま戦争状態に入るようなことはなかったってこと。
まあ、戦争などしようにも、災害発生時点で生き残った人間は、全人口約百億人中の僅か三億人程度。
人員も装備も指揮系統もない状態で戦争をするほど、今の人間の多くは無謀でもなかったということなんだろうな。




