無駄なことは
「やっぱり騙してたのね!! 神河内さんの癌を治す気とかなかったんでしょ!?」
吉佐倉さんが吠えるように声を上げる。涙がにじんだ眼が激しい怒りをはらんでいるのが僕にも分かる。
なのにそんな彼女に対しても、クォ=ヨ=ムイは冷酷だった。
「クカカ! 何を言ってる? 約束を破ったのはお前達の方ではないか。あいつが二百体倒せば私は確かに治してやるつもりだったぞ? それを反故にしたくせに、よく言う」
「何言ってんの!? こんなことになるって言わなかったクセに!!」
「そうだな。確かにその件については私は何も言わなかった。お前達が訊かなかったからだ。騙すつもりで黙っていた訳ではない。お前達の思慮が足りなかったというだけの話だ」
「減らず口を……!」
堪えていた涙が零れ落ちる吉佐倉さんを、アリーネさんが手をかざして制した。
「無駄デス。こいつにそんな道理は通じまセん」
僕に銃を奪われたことでナイフを構え、やっぱり攻撃的な目で僕とクォ=ヨ=ムイを睨みつける。
でも僕には分かってしまった。今の僕なら、たぶん、百分の一秒ほどでアリーネさんの命を奪うことだってできてしまうって。僕が彼女の喉元に咬み付くだけで、玩具の人形の首をもぐよりも容易く食いちぎることができてしまうって。
だから余計に思うんだ。
『お願い。無駄なことはもうやめてくれ…!』
って。
どんなに頑張っても、気合を入れても、根性を見せても、現実問題として絶対に敵う相手じゃないんだ。
たぶん、今の僕ですら、地球最強の軍隊と戦ったって勝つだろう。誇張じゃなくて、電池でカタカタと動いてプラスティックの弾を飛ばしてくる玩具の戦車が一万台並んでたって自分が負けるイメージを持てないだろ? それと同じかな。
なにしろ、街が跡形もなく荒れ地に変わってしまうようなとんでもない衝撃波を、『すごい風だ…!』程度にしか感じてなかったくらいだから。
その僕でさえ、クォ=ヨ=ムイには絶対に勝てない。それが分かってしまう。こちらは、世界最強の腕力を持つ人間でも、力比べではパワーショベルに勝てる筈がないのが分かる感じかな。
マンガやアニメだったら『気迫で圧倒して勝つ』なんていう展開もあったりするんだろうけど、超常の力を得た僕がクォ=ヨ=ムイと戦うなんていう展開もあるんだろうけど、そんな<ご都合主義>が通用する相手じゃないんだ。
人間が生身で台風を止めようとするよりも有り得ないことなんだから……
努力や根性じゃ決して覆せない存在こそが、クォ=ヨ=ムイなんだ。




