×ハーレム、〇介護
訳の分からない状況に遭遇してこれまではテンションが上がってて、アドレナリンだか何だかがドバドバ出てたのかそんなに感じなかったけど、ホッと一息つくと急に自分がステージ4の癌患者なんだってことが思い出されてきてしまった。
普通に寝ようとしても体が辛くて寝付けない。すると吉佐倉さんが、着ていた上着を脱いで丸め、それを枕にして僕の頭の下に敷いてくれた。そのおかげで少し楽になる。
「ありがとう……」
疲れて眠りたいのに眠れないという状態でぼんやりした意識の中、僕は殆ど吐息みたいにしてようやくそう言った。
出会ったばかりの時に比べればまだ打ち解けてきてくれたかもしれなくても、これじゃ<ハーレム>と言うより<介護>だよ。
うっすらと開いた視線の先に見えたのは、申し訳なさそうに僕を見る吉佐倉さんの顔だった。
殆どまともに寝られないうちに体が痛くなってきて、いよいよ寝ていられなくなった僕が仕方なく体を起こすと、ソファーで眠るみほちゃんと、別のベンチで眠る吉佐倉さんの姿が目に入った。彼女のスマホで時間を確認させてもらうと、零時過ぎとなってるけど、周囲はまだ完全に昼だった。
僕は酷く重さを感じる体を何とか立たせ、眠る二人を置いて銀行から出ようとした。すると、
「おいおい、せっかくのハーレム要員を放っていく気か?」
自働ドアの脇に立っていたクォ=ヨ=ムイがまたあのムカつく笑いを浮かべながら僕にそう声を掛ける。
「……僕はそのつもりはないですって、言った筈ですよ…?」
言っても無駄なのは分かってても、言わずにはいられなかった。
だけどその時、
「神河内さん…!」
と背後からも声を掛けられる。思わず振り返った先にいたのは、吉佐倉さんだった。
「正直、最初は『ふざけるな!』って思ってました。だけど今のあなたの姿を見たら、ハーレムとかそういうのは抜きにしても放って置けませんよ。
そうやって悲劇の主人公ぶって格好いい自分に酔いたいのかもしれませんが、残される方の気持ちも考えてください……!」
……そうか、彼女の伯父さんも癌で亡くなってたんだな。その時の遺族の様子とかを思い出してしまったのかもしれない。
彼女は怒ったような顔で、でも目に涙をいっぱい溜めて僕を睨んでた。
「…ごめん……力を借りても、いいかな…?
怪物を倒すのは僕がやる。だけど、それ以外でお願いできることは、お願いしていいかな……?」
何とか精一杯の笑顔を作ったつもりの僕を見て、彼女はきっぱりと言った。
「手伝いますよ。だから逃げないでください。勝手にいなくならないでください。こうして知り合ってしまった人がどっかで野垂れ死んだとかなったら、寝覚めが悪いです……!」




