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デュアルピース  作者: 眠気 愛
第一章 夜猫
8/9

幕間

 それは私が任務途中に情報がなく、途方に暮れている時だった。

 私はパパに言われて常に自身の姿を見えないようにピースを常に発動させている。その理由が素顔こそ知られていないものの、何がきっかけでばれるかわからないからと言われてだ。

 そんなヘマしないと思いつつもパパに言われた事なので必要な時以外は常に姿を消している。だけどそれは姿を消しているだけで身体が透けるわけではない。そのために反対側から歩いてくる人はこちらから避けなければ気がつかずにぶつかる事がある。

 今日も任務のために出発の前にここらの地図を頭に埋め込め、あとは現地確認をしている最中、いつものように前から歩いてくる人を避けようと斜めに歩を進めたところ、相手も同じようにこちらに避けてきてぶつかってしまったのだ。


「あ、ごめん。大丈夫?」


 服装からして男子学生だろう事はわかる。学生はぶつかった拍子によろけてしまった私の肩をつかんで転ばないように支えた後、大丈夫だろう事を確認してもう一回謝って歩いて行ってしまった。

 私はその間、目を見開いてじーっとその学生から離れる事が出来なかった。

 なぜ私の姿が見えるのか。ピースを使い忘れたのだろうか? もしかしてピースが無力化されているのだろうか? それともあの学生自身が無力化するようなピースなのだろうか?


 そう考えてまずその学生以外の人の前にわざと前へ出て立ち止まってみた。だが避けるそぶりすらしない男性を見て使い忘れたという選択肢をなくす。

 二番目の考えも否定した。避けるそぶりをしない男性を見て無力化すらされていなかったことが分かったからだ。

 三番目の考えが一番濃厚なのか。あの学生事態が無力化するようなピースを持っていると考えるのが妥当だ。

 そう結論づけてどんなピースを持っているのか突き止めようと先ほどの学生を追ったのだ。今回は地図や現地の土地を覚えるぐらいしか任務がないので問題なしと判断した。


 その学生が去った方角へと歩いていくと、コンビニと言われている店から外へ出てくる学生の姿が見受けられた。私は気配を消しながらピース能力を全力で働かせて姿が見えないように追跡しようと行動を開始した。

 だがそんな事は知らないとばかりに学生は私の方を向いた上であろうことか話しかけてまで来た。

 ありえない。なぜ私が見えるのか。これでも全力で消えているのに学生はそんなことは知らないとばかりに手に持った揚げた肉を私に差し出した。

 お腹が減っていたわけではないが、口に放り込まれた温かな大きな肉が喉を通り、もう無いのかと少し催促してしまったが今やるべき事はこの学生のピースを見極める事であって肉を食べる事じゃないと気付いた時には少し胸がもやもやした。

 よくわからない靄に不気味に思いながらもここは一旦出直す方がいいと考えた私は一度彼から距離を置いてアジトへと帰る事にしたのだ。


 その翌日。再び学生が私を捉えた。

 今回はアジトを出る前に父様にピースがちゃんと発動されている事を確認した上で来たので効果が発動していないことはあり得るはずがなかった。だが彼はいとも簡単に私を見つける。

 なぜ?

 私は彼を凝視しながら彼の近くにいた友人との会話に耳を向けた。そして、彼の名前を知ったとき、不意にヒロトと呟いていた。彼の名前を確かめるように。


 声が聞こえたのか、彼は改めて自己紹介をしてくれる。

 ヒロト・ヤブキ。

 私の中でその名が刻まれる感覚。わからない。わからない。わからない。いくつかの考えを自分に問いただしてもわからない。

 彼は不安そうに自分の名前を英国に似せたけどわかるから大丈夫と返し、そのまま私が呼ばれているコードネームを答えた。

 普段、自分から名乗る物ではないが彼にだけはなぜか知っていてほしかった。


 そして、彼の友人がどこかへと消えて彼が建物から出てきたときにだ。名前で忘れかけていたが彼に思い切って聞いてみたのだ。なぜ気がついたのかと。

 苦笑しながらも彼には気づかない方がおかしいと言われてしまった。それがおかしいのだがと思いつつも自分の能力を普通は明かすはずもないと思い諦めた。


 その後は彼に同行して任務のためにこの島の地図を頭に埋め込みつつしばらく散歩していた。その間、彼がなんて呼べばいいかわからないというので日本語で夜猫でいいといったのだがそれは気にくわなかったらしく、仮の呼び名ということでクロという名前となった。

 なぜそうなったのかはわからないけれど呼ばれ方など特に気にしていない。


 彼としばらく歩いてみて、わかったことがある。彼は普通に歩いているようだがその歩みは普通の一般人に比べて足音が小さい。運動靴とはいえ、ほとんど聞こえないその歩みは何かしらの武道を習っているモノだとわかる。

 それ以外は彼がこの島の事をよく知っていて、安全な裏路地や人が多い大通りなどを教えてくれた。

 普通の一般人が知っている事なのかと思いつつも私は何も言わずこの島についての話も一言一句頭に叩き込むように覚えていく。


 そして人が集まると言うデバートのところまでやってきた。確かにここならば私の目的の人物が来そうな場所ではある。

 この島で人が集まる場所ならば自然と強い人物もその中にいるだろうと考えたあの男が。

 私がこの島に来て受けた任務とは。この島にいるであろう私たちの組織を抜けた裏切り者の排除と言う物だった。

 途中、ゲームセンターという場所に彼が案内してクレーンゲームのような物をやっていた事に疑問に思ったがどうしても欲しいというので少しピースを使ってクレーンを強化。黒猫と白猫の人形をとれるようにして獲得したりした。

 だけど、彼はその事に対して怒ったのだ。ただ、幼い頃任務失敗した時に受けていたような暴力的な怒りではなく。優しく。まるで私の事を心配するかのように怒った彼に動揺した私は素直に謝った。

 怒られる事は痛い事。そうであるはずなのになぜ彼は手を上げないのだろう。渡してくる人形を抱えながら彼を眺めたその時だった。


 遠くから聞こえる悲鳴。小さく鳴り響く銃声。私は奴が来たのだと確信した。

 私がこのタイミングに出くわせたのは幸運だった。彼にここを案内されてよかったとも思える。

 普段通りに姿を消し、気配を消してゆく。逃がすわけにはいかないと考えて慎重に。鳴り響く銃声を聞きながら私は最上階の吹き抜けの場所にたどり着いた。

 そこで繰り広げられる惨劇を眺めながら奴が油断した所を狙うべく手元に召喚した等身大はありそうな巨大な二対の大剣が見えない弓に引かれているかのように構える。


 一通りの殺戮を終えて不満げにする奴を見つつ好機と見た私が今まさに大剣を放とうとする直前だった。彼が来たのは。

 彼が現れたと同時に心臓が跳ねた。大きく脈打った初めての感覚にわけもわからず放つ予定だった大剣をそのままにして現状維持をしてしまった。奴の目がこちらを捉えたように感じた。

 こちらの場所がばれた。姿は見えていないだろうから何となくであろうが奴に私がこの場にいる事がばれてしまった事に舌打ちをして場所を変える。ばれている場所から攻撃などできるわけがない。そのような場所でやっても簡単に対処されるだけで消すことができない。


 彼が奴と一騎打ちをする光景を痛む心臓を押さえながら確認しつつ奴の背後に静かに回る。

 そして彼が乗り出した時だった。腕が刃に変化しているのを確認した。

 トランス能力者? 彼が?

 その事に驚いておかしいと否定する。私の中では看破系統のピースではないかと答えが出ていたのだ。なぜ変化系統のピースなのだ? それでどうして私のピースが看破される?

 新たに生まれた謎に動揺した私は背後を取った上に驚いていた奴への絶好の好機を逃してしまった。

 奴はミニガンなどという玩具を放り投げて発動させたピースを応用して彼へと殴り掛かった。一瞬の攻防の末、簡単に吹き飛ばされてしまった彼は意識が朦朧としているのか立とうとしていない。

 そこに奴が止めを刺そうと近づいた時だった。


 好機でもなかった。奴はもう常にこちらを警戒していた。出直すべきだった。一度撤退して次の機会を待つべきだった。

 私は引き絞った二対の大剣を奴と彼の間へと放って奴の止めの攻撃を防いだのだった。

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