第五話
期間が開いて申し訳ないです。ストックが切れたので更新速度が落ちてしまいます。
「なんだ?」
「――……」
「え? クロ!?」
俺が何かを聞く前に、走り出すクロに慌てて手をつかんで止めようとしたがするりと手を抜け、止める事が出来なかった。
続けて走りだすが前方から逃げてきたのか悲鳴を上げながら逃げてきた集団に巻き込まれて見失ってしまう。
「くっそ、一体何が」
未だに銃声は聞こえてくるし、人はそちらから逃げてくるし、クロは明らかに危ない方面に行くし。
銃声は一度聞こえ始めるとしばらく騒音が続くのでマシンガンタイプだというのはわかる。いやむしろミニガンの様な重火器の様な気もする。
だとしたら確実に近づくのはまずい。早くクロを見つけてやらないと。
走り出した俺はいくつもの店を流し目に探しながら噴水の吹き抜けまでたどり着く。ここに来るまでクロの姿を見ることはなかった。それどころか、人の銃殺死体がいくつも転がっており、吹き抜けへの手すりはすべて無残に破壊されている。噴水も何かしらの破壊行為がされており吹き抜けはもはや残骸だらけとなっていた。
明らかに戦闘があったらしく銃弾以外にも柱や壁に傷跡が残っている。
もしまだ犯人がここにいるのならば危険と判断した俺は手早くこの場を離れようと考えた。昔、剣道で習ったすり足で足音をなるべく消しながらクロを探す。声を出すわけにはいかないので静かに探そうと思った矢先に声をかけられた。
「よぉ、何探してんだ?」
金髪でグラサンかけた男がその崩れそうな吹き抜けの手すりの上にヤクザ座りしていた。手には回転式のガトリング、背中にはガトリングからつながっている弾薬庫の様なものを背負っている。
そして、手すりから降りた男が持っているその銃口は……俺に向いておりすでに回転し始めていた。
幸運にも近くに柱があったので壁になるように背後に隠れたその次にはすさまじい銃声とともに銃弾が柱を削っていく。
「くっそ、誰だお前! なんでいきなり撃ってくるんだよ!」
「はははは! なんでってお前、この場の惨状見ればわかる事だろーがよ!」
くそっ、銃声の方向へ向かう以上出会う事はほぼ必然であった確立が高かったがなるべくなら見つかりたくはなかった。
柱へと隠れたからか、今まで続いていたミニガンの銃声が止まる。
「何のためにこんな事する! これはただのテロ行為だぞ!!」
「そりゃお前、この島に殺人鬼が来る理由なんて少し考えればわかるじゃねぇか」
ピースを持つ能力者というのは世界に同じピースを持つものがいない。似たような能力者は居ても全く同じ能力者という人物は確認されたことは一度もない。
そのため、同じ能力者がいないということは能力者の人数も限られている。そして、俺たちが通う奥武陽学校があるこの島は全国から有能と判断された能力者が集められて育てられる場所なのだ。
つまり今この男は別の場所からこの島に能力者を求めてやってきたって事なのだろうか。
「俺はな、強い奴が好きなんだよ。お前はいったいどんなピースを持ってんだ?」
口端を釣り上げた男はミニガンのトリガーを引いた。再び放たれる銃弾の雨に出していた顔を柱へと隠す。
今俺が隠れているこの柱は撃たれ続けているからなのか徐々に削られている気がする。柱に着弾している銃弾の音がわずかだが着実に近づいている気がするのだ。そう思ったらいつまでもここにいるわけにはいかない。
辺りに何かないかと探るが残念ながら何もなく、壁になりそうな柱も少し遠い。せめて、相手が少しでもこちらへと近づいてきてくれたならば。
そう考えながら自身の右腕の上に左腕を乗せ、ゆっくりと瞼を閉じる。
大丈夫だ。今までだって、命を懸けた事など幾度もあった。
「おいおい、まさかこのまま何もせずくたばっちまうつもりか?」
「…………」
奴の声が聞こえる。その声は先ほど男がいた場所よりも少し近づく銃声の音。
「使えよお前の能力をよぉ。まさかこの島にいて無能力者だなんていわねぇよな? おい」
「…………」
再び男の声が聞こえる。銃弾が横を通り抜ける音を閉ざす。
「はぁ、どうやらあたりかねぇ。んじゃもういいわ。死んでくれ」
金髪の男が隠れていた柱をけりつけたとたん、すさまじい轟音とともに柱が破壊されて瓦礫とミニガンの銃弾が同時に飛んでくる。
男はこれで終わりかと失望したような顔でその柱を見つめている――目の前に俺が迫っているとも気がつかずに。
「!? テメッ!」
「シッ!」
鋭い刃をかわそうととっさに後方に跳躍して後退する金髪の男。しかし、その手に持っていたミニガンの銃身に俺の右腕が捉えて半ばから叩き切る。破壊されたミニガンは放り出され、吹き抜けを落ちていった男は背負っていた弾薬箱を放り捨てた。
俺は逃げた男を追って手すりまで近づいて下を見ると、弾薬箱の鈍重な音とともに男が停止した噴水脇に着地して、自身の右腕を見ていた。
徐々にその右腕は震え始め、顔へと持っていくと声が漏れ始めたのだ。
「く、くく……はははは!! そうか! お前はその能力か!! 会いたかったぜ変身のピース!!」
その顔は狂気そのもの。顔は歪み、その眼は血走り、全身で喜びを現すかのように狂ったように笑いだす。
変身。それは自身の身体を変化させることができる有名なピース。有名なピースというのは共通して強力な能力だ。逆にわかり辛いピースというのは弱いピースである事が多い。多いだけで知られていないピースは数多に存在している。
その中でも奴が言った変身のピースは全身凶器人間。体のどんなところからも凶器を出現させるために近づく事すら危険な存在。
そして、今の俺の右肘から先は人の腕の形をしておらず、鋭い刃が剥き出しで存在している。それを見て金髪の男は俺が変身のピースだと理解して喜んでいるのだろう。先ほどの言葉を信じるならば、こいつは強者に会いに来てるのだから。
男は床を蹴り付けるとクレーターが出来上がり弾丸の如き速度で俺へと迫ってくる。
後方へと下がると床事蹴り砕いて跳躍してきた男は二階へと着地と同時に右腕で薙ぎ払うと、男の右足が跳ね上がり刃の腹を蹴り上げる。
予想以上の強い蹴りに不意を突かれて男が左足を軸にして回し蹴りを放ってくる。万歳状態の右腕で防げない以上左腕で防ぐのだが、防いだ瞬間、骨が折れる音と共に俺の体を吹き飛ばす。
受け身も取れずに柱を破壊してその向こう側の店の壁へと激突した。激しい激痛と共に後頭部を打ったのか意識が飛びかけるが何とか踏みとどまるがその場へと崩れ落ちた。
「おいおい。軽く蹴っただけで終わりだなんて抜かすなよ変身能力のガキ。近接脅威のお前がこれくらいでやられたら話にならねぇだろうが」
ただの一度。その一度の攻防でここまで差が出てしまう。奴の能力はいまだ知れず、こちらは左腕が確実に折れた上に意識が朦朧としている。
強い。確実に格上の相手にどう逃げるべきか考える。俺では勝てない。相手が逆立ちしようが勝てない相手と悟ったとたん、俺は逃げ道を探した。
その目線を男が追うように見ていたのも知らずに。
「おいガキ。まさか逃げようだなんて思ってねぇだろうな? この俺がこうして対峙した以上、逃げられると思ってんのか? そもそもテメェの能力の十全に使やぁさっきの蹴りも鉄なりにして防げただろうが。もしかしてガキ。お前自分の能力も使いこなせてねぇのか?」
「――ッ!」
生唾を飲み込む。使いこなせていない。そういわれて心臓が掴まれたかのようにドクンと脈打つ。
その反応が肯定と受け取ったのか男はイラついた表情を浮かべた。
「チッ、変身能力ならば久しぶりに楽しめるかと思ったのによぉ。これじゃあ期待外れじゃねぇかゴミクズが。次のピース使いに期待するとするかね」
男の姿が消える。ぼやけた瞳が目の前に男の足が迫っている事に気がついた。
(あぁ……俺は……。ごめん、尚樹。舞、俺……今そっちに……)
激しい轟音と共に俺の意識が途切れた。
次回はもうちょっと早く更新できたらなぁと思います。がんばります!