第四話
無事に唐揚げ四個入り二つを変えたことで片方をちゃんと残っていた彼女に上げる。
「ほら、君の分だぞ」
「ありがとう」
はじめ、彼女はそのまま手づかみで食べようとしていたので俺はそれを止めてつまようじがあることを伝える。そのことに気が付くとそれを使って一つ一つさして食べていく。彼女の口には少し大きい唐揚げだが、少しずつ消費していった。
四つ目の唐揚げを食べて満足したのか一息ついて残った箱をどうしたらいいのかこちらを見上げてきたので最後の唐揚げを口の中に入れてゴミを受け取った。
「そういえばコンビニの屋根で何してたんだ? 俺以外の人は気が付いていなかったみたいだが」
「そう、それが聞きたかった」
「へ?」
ずずい、と顔を近づけてきて小声でささやく。その顔はいつも通りの顔のようで、それでいて少し真剣。
キリッとした顔が目の前まで迫ってきた。
長いまつ毛がくっきりと見えて、金色の瞳が俺を捉えて離さない。
「どうして私に気づいたの?」
「え、どうしてって……屋根の上にいたらそりゃ気づくだろう」
「…………そう」
腑に落ちない顔をしながら歩き出した彼女に疑問を持つが、それよりもあたりの反応に注目してしまう。
俺と彼女の先ほどの行動がちょうどフードで見えなかったのか、きゃーきゃー騒いでる女子学生組やおばさんが「若いっていいわねー」なんて微笑ましくニコニコしている姿を見れば彼女たちがどんな風に誤解しているのかなんて察するだろう。
「はっ!? ち、違うんです! キスしてないですから!」
俺は逃げるようにしてその場を去った。
◆
「そういえば君は……あー、名前ないと呼びずらいな」
「君とかで大丈夫」
「それだとたくさん人が居た時とか困るだろ。そうだな」
あたりを見回して何かないかなと探してみる。しばらく歩いていたからか島の端にまで来ており、沈みかけている太陽が空を橙色に染めていく。
さて一つ話をしておくならば、ここは東京湾のさらに南の方に作られた島で本土とは電車か大橋での二通りとなる。よって海も近い。
「別に夜猫でいい」
「それはあだ名みたいなものなんじゃないのか?」
「(コクン)」
「それじゃあ……なんか思いつかないしクロって呼ぶことにしようかな」
「それでいい」
なんか黒猫を呼ぶような感じになっちゃったけどなんか見てて猫を連想させそうな子だし案外間違っていないかもしれない。
「クロは何か用があって海岸沿いを通ってるのか?」
「……散歩。来たばっかだから」
「来たばっか? もしかして最近この島に引っ越してきたのか?」
「(コクン)」
「なら一緒に散歩しないか? 俺の相方が勘違いしてそのままどっか行っちゃったしなぁ」
「……なら、人が多く居て、それでいて路地裏もたくさんありそうなところ。近くに川とか海があると尚良い。その場合は路地裏は外す」
急に饒舌に話すので少し驚きつつもどこかないかなといくつか考えたのだが、そもそも人工島なのでそういうのがたくさんありそうなところは思いつかない。
ビルはあってもそこまでたくさんあるわけでもないし路地裏ってほど路地裏があるわけでもないし。
「しいて言うなら……電車とか? 後バスとか」
「電……車?」
「あぁ、だってここらそういうあんまりないし。人がたくさん集まるってだけならそれぐらいかなと。後はデパートぐらいかな。そういえばデパートは中に噴水あったな」
不意に前を歩いていたクロが立ち止まる。
「デパート……そこ連れてって」
◆
街の案内をしながらデパートまでやってきた。大きいデパートで、一階から四階まである。入り口からすぐは吹き抜けとなっており、噴水が設置されている。
時間帯が夕方ごろだからか夕飯の買い出しをし始めた主婦や制服姿の学生などがちらほら見えた。
「ここがデパートだな。何か買っていくか?」
「見て回るだけでいい」
買い物に来たわけじゃないのか。もともと場所を探していたみたいな感じだったし。
デパート内を二人で歩いていると二階に来た当たりで目の前にゲーセンがあった。
「ちょっと寄ってっていい?」
「?」
ゲーセンの中に入って行ってUFOキャッチャーなどの中を見て景品を見ていくけど特に欲しそうな物があるわけでもなく、一周するだけで表側へと戻ってくる。
すると、クロがじーっと一つの台の前に張り付いており動いていない。
台の中を見れば目を開いて座っている姿の黒猫と目を瞑って寝ている姿の白猫のぬいぐるみがいくつかおいてある。大きさは二つ合わせて抱え込むぐらいだろうか。首輪に鈴が付いていて、
「欲しいのか? 取ってあげようか?」
「(フルフル)」
首は振るけどじーっと目が離れる事がない。仕方なく台に百円投入して狙いを定めてからボタンを押す。移動して下がったクレーンが黒猫の首をとらえて持ち上げようとする。しかしクレーンは黒猫を立たせただけで持ち上げられず、そのままぱたりと倒れこむ。
再び百円を投入して今度は少しずれて首あたりを持ち上げようとする。しかしそれがちょうど良かったのか頭が引っ掛かって持ち上げる事ができたのだが上まで持ち上げたときにガクンとクレーンが揺れてそのまま落ちてしまった。
「くっそー。頭より胴体持った方が取れるのかなこれ……」
「欲しいの?」
「あぁ、欲しい。欲しいね」
するとクロは俺が次の百円を入れたのと同時にじーっと猫ではなく、クレーンの方を見始めた。応援してくれている……って感じだろうか、よくわからないがとりあえずクレーンを動かして行く。
黒猫の胴体の方にクレーンを持ってって降ろすと、クレーンはあろう事か隣においてあった白猫の方にも引っ掛かった。さすがに2つ同時に持ち上げる事なんてできないだろうと丁度百円切らしたので千円札を百円にしに行こうとした所で目を疑った。クレーンが2つをまとめて抱え上げたのだ。
いやいやいやあり得ないだろう。こういうのって大体クレーンの力を弱めているし引っ掛かるとかならまだしも確実にクレーンの力だし。
抱え込まれた白猫と黒猫はそのまま落ちてクロが2つとも取り出した。
「はい」
「あ、えっと。ありがと……って、もしかしてピース使った?」
「(コクン)」
「だ、ダメだろ! こういうのに使っちゃ!」
「え……」
まさか遊びにピースを使うとは思わなかった。一体どんなものかは見てわからなかったが、わかるかどうかの問題ではない。
これは確実に不正であり、ズルである。もし監視カメラに映っててピースを理解されていたら店とひと悶着は確実にあるだろう。今のところ店員が来ないので見られていないのではという期待はあるが。
「クロ、こういうのは最終的には取る事を目的としたゲームだ。だがな、不正やズルをしていいゲームではないんだ。行程を楽しむ事もあるだろうに、クロはそれをダメにしたんだ」
「(コクン)」
「確かにピースは便利だ。何でもできる。けどな、それに頼ってるだけじゃいずれは楽しい事なんて何にも無くなってくる。だから無駄にピースを使うんじゃない。わかったか?」
「ごめん、なさい……」
力なく返事するクロに少し言い過ぎたかなと思い、謝るクロの頭をなでる。そして、手に持ってた黒猫と白猫2つともクロへと手渡した。
顔を上げたクロがハテナを浮かべていたがもとより彼女のために取るつもりだったし俺がこれ持ってても仕方ないし。
「ほら上げるよ。じーっと見てたし、欲しかったんだろ?」
「…………」
少し悩んだそぶりを見せつつ、クロが黒猫と白猫を受け取ろうとした時だ。
突如響く銃声。
続く悲鳴と、張り上げた罵声が聞こえてきた。