明日美と智子 ダブルバインド
泣きながら保健室に入ってくる智子。
「あらあらどうしたの?泣き止んでゆっくりお休みしましょう?」
北斗がなだめる生徒を見つめ、眼鏡の奥が光る誠史郎。
「体調が悪いわけでもなさそうだね?話せそうなら話してごらん?」
相談室のソファでぐずりながら智子は涙をふく。
「私、同じクラスの神田君が好きなんです・・・」
「ほう。それはそれは。人を好きになるのはいい事だね」
誠史郎はなぐさめる。
「そうしたら隣のクラスの岡崎君っていう子が私のこと好きらしいって・・・」
「断れなくて困っているのかい?」
「違うんです!なんかその事が同じクラスの明日美にバレて、明日美は岡崎君の事が好きみたいなんです」
「なるほど~。ちょっと複雑な人間関係だね?」
誠史郎がうなづく
「そうしたら明日美から急に呼び止められて岡崎君に告られた事バラすか、私が神田君の事好きなの
バラすって言うんです。神田君の事はまだ誰にも知られたくないんです。
仲のいい子しか知らないんです」
「ほう。ダブルバインドかなあ?とんだ小悪魔ちゃんだね」
「だぶるばいんど?」
「選択肢が2つあった時にどちらを選んでも得にならない事だよ」
「まあ、勝手に情報はばれたくはないからね」
「どうしたらいいですか?知られたくない」
「お返しをしちゃおうか?。大丈夫だよ」
ニッコリと誠史郎が笑う。
「明日美ちゃん」
「何よ?気安く話しかけてこないでよ」
「あのね、この前の事、私耐えられなかったの。
だから、岡崎君に明日美が好きだって事伝えようと思って」
「はあ?何それ脅し?」
「違うよ。告白のタイミングを一緒にしようと思って」
ムカッとする明日美。
「もういいわ!この話これ以上智子と話す気ないわよ」
「でもそうしたら、あたしたちの気持ちがわかってくれると思って」
「もういい加減にして!今の話、他に話したら承知しないわよ」
ぷいっと明日美は出ていく。
「こ、これで大丈夫なのかな?」
智子はドキドキと胸に手をあてる。
「上手くいくでしょうか?」
北斗が尋ねる。
「大丈夫じゃないですか?明日美さんはこちらが思っている程実行力はありませんよ。
ちょっとヘソ曲げるくらいで済んでくれるんじゃないですか?」
コーヒーを飲みながら誠史郎は外を見る 。
「いや~。恋する女の子は怖いね~」