日本人の殆どはマニュアルを読まない
押された突起はへこみ、右上のランプが赤く輝いた。
AEDは一般的にヒトの蘇生に使われる機械だ。止まった心臓に電気を流すことにより、再び心臓を動かすことができる。
100%では無いが確実に蘇生率は上がる。AEDは型によって電源の入れ方は様々だが一般的な物は箱から出した時点で電源が入り、電気ショックを流すシートを蘇生対象者に貼ることで電気を流せる状態になる。
「やっぱり普通のAEDとは違うなぁ」
「壊れてるんじゃないのか?ゴミをお前んちの宅配ボックスに入れられただけだろ」
智和の興味は既に薄れており、黙々と電子端末を触っている。
「もしかしたらオークションとかで売れるか?」
「そんなわけないだろ」
とっておきの意見をバッサリ切り捨てられた隆人は口を尖らせながら冷やされた床に寝そべる。
場にはエアコンの音だけがある。沈黙を絶ったのは隆人の一言だった。
「使ってみるか」
体を起こし、AEDに手をかける
「何に使うんだよ」
智和の質問に耳を貸さず良いものが無いか、隆人は探す。
「あー、まぁこれで良いか」
隆人が手に取ったのは一つの梨だった。
「もったいなくないか?」
「これ腐ってるっぽいから大丈夫だろ」
隆人が箱の中に入った数個の梨の中から選んだものはたまたま腐っていた。
「もったいないな、腐らせるのがな」
智和は呆れながら呟くのだった。
「これで準備良しと」
机の上には、電極パッドが貼られた梨がある。
「それにしても酷い匂いだな」
梨を腐らせた張本人は、堪らず顔を離した。それを見ている智和は横目で、さっさとやれと視線を送っていた。
「それじゃあ押すぞ、ポチッと」
ボタンを押すと同時にランプは光り、異常なまでの輝きが周囲を覆った。
「なんだこの光、目が痛いな」
突如、光出した梨に目を眩まされた隆人は言った。
「わからない、突然過ぎてなにも」
「大分目が慣れてきたな…」
目を擦りながら光が収まった梨の方へと二人は視線を向ける。
「当然だか、何も変わってないか」
落胆の言葉を隆人は発し、再びスマホに目をやってしまった。
「異常なまでの発光は何だったんだ?」
智和は、首を傾げ、発光した梨を見つめている。
「他の梨冷蔵庫に入れてくるわ、これ以上腐ったら嫌だしな」
思考を巡らせてる智和の横を通り、冷蔵庫へと向かう。
冷蔵庫のドアを開け、梨を入れようとした時、鼻につく異臭が隆人を襲った。
「臭っ!これ腐ってないか?」
数個の梨のうち、一つが腐乱し、色が変色していた。腐った梨は先ほど使ったような気がしたが、隆人は特に気にもかけなかった。
「隆人、お前さっき腐った梨を使ってなかったか?」
「だと思うんだけどねー」
「いや、そのはずだろ、俺も確認していた」
隆人は首を傾げた。先ほど入れた冷蔵庫の中に腐った梨が入っていたのを思い出した。
机の上には電極パッドの貼られた綺麗な梨があった。