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アーシェスからの手紙

その日アーシェスは、手紙をしたためていた。親しい人間達に宛てた手紙だった。これまでの感謝を素直に表したお礼の手紙だった。その中には、ユウカに宛てた手紙もあった。


<書庫>に来てすでに二百万年以上。夫と結婚してからでも百万年以上。子供には恵まれなかったが、実質子供のような者達はそれこそ数限りなくいた。それらの一人一人に手紙を書いていてはさすがにキリがないから、自分の碑に『ありがとう』と刻み、それを全員に宛てたメッセージとした。手紙は、まだ十分に言葉を交わせた実感がなかった者への補足のようなものだった。


もうすでに準備は万端整っていた。夫も寄り添ってくれる。大人になることを拒み続けた我侭な自分に百万年も付き合ってくれた彼は、アーシェスにとっては夫であり恋人であり兄であり父親でもあった。この人と巡り合えたことが間違いなく自分の一番の幸せだと自信を持って言えるだろう。


手紙を書き終え、ペンを置き、封をして専用のケースに入れて「ふう…」と小さく息を吐いた時、全ての肩の荷が下りた気がした。そして夫の腕に抱かれ、キスを交わし、寄り添い合いながら眠るようにして二人はその生涯を閉じたのだった。


その後の作業は全てロボットが行ってくれる。二人が眠るカプセルを厳重に封印し、安置区域と呼ばれる圧縮領域へと静かに運び込み、システムに収容すれば終了である。


アーシェスと夫がそれぞれしたためた手紙は宛先へと発送され、二人の私物もすべて圧縮コンテナに収容されて体と共に圧縮領域にて保管。アーシェスと夫が使っていた家は完全に初期化され、新しい住人を待つこととなった。


これが、<死のない世界>であるここでの<死>である。厳密には本当に死んだわけではない。あくまで圧縮されたデータとして静的状態で保存されるだけだ。だから、圧縮を解除すれば再び元のように日常を送ることもできる。だが、実際にそれを選ぶ者はまずいない。そういう心残りがあるうちは、これを選んだりしないからだ。満たされ、全てをやり遂げたと感じ、ゆっくりと休みたいと願った者だけが選択するのである。アーシェスはそう思えるようになるまで二百万年かかった。それだけの話なのだ。


ユウカに宛てられた手紙には、こう書かれていた。


「ヘルミのこと、ありがとう。あなたが私の最後の担当で本当に良かった。あなたの人生が満たされたものになることを、私も心から願っています」


ユウカがその手紙を受け取ったのは、アーシェスと彼女の夫が共に眠りについた翌日のことであった。


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