仕事を依頼する前に
五万ダールと言えば、ユウカの一ヶ月分の給料のほぼ半分に当たる。非常に物価が安いここではそれでも十分な給料なのだが、さすがに人気作詞家ともなればそのくらいは出さないと引き受けてもらえないということなのだろう。変に安くしてどうでもいい仕事ばかり舞い込んでは困るというのもあるのだから。
もちろん、ユウカが個人的に頼む仕事も、それほど重要でもなければ大きな仕事でもない。しかし一ヶ月分の半分の給料をつぎ込んででも頼みたいとなれば、それも立派な仕事と言ってもいいはずだ。
ユウカは無駄遣いをするタイプではなかったので、すでに年収分程度の貯えはあった。これなら無理なく仕事を依頼できる。とは言え、その次のハードルがあった。実際に作詞してもらうにあたって、どういう内容の詞を書いてもらうかということを伝えなければいけないのだ。あまりに大まかで漠然とした内容では、恐らくポルネリッカやヘルミに宛てたものだとはそれこそ気付いてもらえないだろう。
「やはり、具体的なプロットを提示するのが一番だと思われます」
シェルミのアドバイスもあり、ユウカはプロットを考えることにした。自分が今どれだけ幸せか、どれだけポルネリッカやヘルミのことを心配しているかを伝える内容を考えようとした。だが…。
「何これ…、ただのリア充自慢じゃない……」
自分が書き上げたプロットを読み返し、ユウカはそれが単なる幸せな人間が不幸な人間に同情しているだけの浅ましい自慢話に見えてしまって、打ちのめされるのを感じていた。そして気付いた。幸せな自分がポルネリッカやヘルミのことを気遣おうとしているのは、ただの上から目線なお節介なのではないか?。親切の押し売りなのではないか?。下手をするとただのイヤミにさえ受け取られてしまうのではないか?。ということが頭をよぎり、そのメモをくしゃくしゃと握り潰してしまった。
とにかくプロットを書き上げてから仕事を依頼しようと考えていたのは正解だった。いざ自分が伝えたいことを言葉にしようとするとこんなにも難しいものなのだということを思い知らされていた。自分と同じように幸せそうにしている相手になら他愛ない雑談のように言葉を掛けることができても、相手が辛い状況にある時には慎重に言葉を選ばなければかえって傷付けることにもなりかねない。その当たり前のことを改めて気付かされたのだ。
それでも何とか諦めずに言葉にしようと思った。時間を見付けては言葉をつづり、余裕がある時には頭の中でそれを模索した。その間にも流れるように時間は過ぎて行き、気付けば二年が経過していたのであった。




