レルゼーの話
『ヘルミさんのことなんですけど…、訊いちゃ、ダメですか…?』
ユウカにそう話しかけられると、レルゼーは落ち着きを取り戻した感じで「いえ、お話しします…」と静かに語り始めた。
「私がヘルミに出会ったのは、彼女がまだここに来たばかりの頃でした…。彼女は今よりもっと荒れてて誰彼構わずケンカを売ってました…。そこでアーシェスが、『そういうのを吐き出したいならロックバンドにでも入ったら?』と言って私のところに連れてきたんです…。彼女も、元々ロックは好きだったそうです…。
でも彼女が対邪神の魔法使いとは誰も知らなくて、私も彼女の声を聞いてそれでOKしました…。彼女の声、すごく力があってとても素敵でしたから…。
だけど、彼女がバンドに加わってようやく慣れてきたと感じた頃、偶然、私が邪神だということを知ってしまったんです。それで彼女は怒ってしまって『こんなところにいられるか!』と言って出て行ってそれっきりになりました。
私は、彼女の声が好きです。彼女が邪神を憎んでいるのは仕方ありません。私はそういう存在ですから。でももう一度、彼女の声でやってみたいと思っています…。
あ、もちろん、今のヴォーカルのコも素敵ですよ…」
人と話すのは苦手と言いながら、彼女も自分の気持ちは語りたかったらしい。淡々として感情が込められてない平板な声ながらそこまで一気に話したのが何よりの証拠だろう。
ユウカは思った。『やっぱり可愛い女性だな』と。邪神を相手に可愛いも何もないが、そう感じてしまったのは仕方ない。無口でコミュ障でも根は真っ直ぐな人なんだろうなとも感じていた。だから、
「そうだったんですね。ヘルミさんとまた一緒にできたらいいですね。私も応援したいです」
と、まるで仲の良い学校の先輩にでも話しかけるように真っ直ぐな視線を向けながら彼女は言った。その姿は、ふわりとした柔らかさと透き通った清廉さも併せ持ち、それを目にしたガゼの胸を鷲掴みにすると同時にレルゼーの深いところにも沁み込んでいった。
レルゼーは邪神だから、本来は人間のような心はない。だが、人間の肉体を有している時にはその肉体に由来する情動は生じる。<心のようなもの>は生まれる。そこに影響することはある。ユウカの何気ない表情が、レルゼーのそういうところの琴線に触れたのは間違いないだろう。
こうしてユウカは、多くの惑星で魂にまで刻み込まれた恐怖と憎悪の対象でもある邪神、カハ=レルゼルブゥアとも仲良くなってしまったのだった。




