地球人の感覚からすると奇異に見えることも、ここでは普通です
「ガゼちゃんごめんね~、うちのバカが迷惑かけちゃって」
ユウカがいつものようにリーノ書房のバックヤードで仕事をしていると、店の方からそんな声が聞こえてきた。だが、彼女はそれほど気にする風でもなく仕事を続けていた。お客もほとんど顔見知りのここでは、お客が店員に対してそんな風に話しかけてくることは珍しくもなかったのだ。
それに今回の声は、ユウカにとっても聞き覚えのあるものだった。アイアンブルーム亭の常連でもあり、だいたいいつも同じく常連のゲンザー辺りと一緒に酒を飲んでは酔っぱらってるゴビー・ランクルトの奥さんのバンスィだ。もっとも、<奥さん>とは言ってもその姿は、ガゼとほとんど変わらない、幼い少女のそれだったが。
紫がかった三つ編みのお下げが良く似合う、外見上は若干肌が赤っぽいだけでガゼやユウカとそんなに違いのない、ランドセルでも背負わせたらそれこそ小学校の低学年の女の子にしか見えない女性だった。
そう。それがガゼに絡んだ酔っ払いのゴビーの<趣味>である。と言っても、それがいわゆる小児性愛かと言うと、実はそれも違うのだ。ゴビーの種族の女性の姿が基本的にそうだというだけである。地球人から見れば幼い少女にしか思えなくとも、実際には立派な成人女性だったりするのだ。知らなければもはや別の種族にしか見えないほど、男女で体格差がある種族なのだった。だからゴビーにしてみれば、酔っぱらってナンパした程度の感覚でしかなかったのである。
さりとて、昨夜のゴビーの振る舞いは、彼の種族の慣習からしてもマナー違反である。ガゼに手ひどくあしらわれても仕方ないほどの無礼な真似であった。それを妻であるバンスィが買い物ついでに詫びに来たということだ。
ちなみに、バンスィはゴビーとは違う種族だった。ここに来た時は子供だっただけで、今では年齢も三百歳を超えており、ゴビーよりも年上だ。本来は体ももっと大きく成長する種族なのだが、その姿がゴビーの好みに合い、猛烈なアタックの末に<お試し>として結婚してすでに五十年が過ぎている。
実は<書庫>内では同種同士だけでなく異種間でも結婚は普通に行われており、非常にありふれたものだった。むしろ同種同士で結婚できることの方が珍しい。その一方で、さすがに異種間同士だとよほど遺伝的に近い場合でもない限り子供が生まれることは滅多にないが。しかし、元より子供を残す意味があまりないここではそれを気にする者もさほどいない。
なお、お互いに死なないので、結婚生活にも死別という形での終わりもない。だから離婚や再婚もここでは当たり前のことなのだった。




