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メジェレナ・クヒナ・ボルクバレリヒン、独身、ショップ店員

「あ~、アーシェスか…、なんか物音するなと思ったらやっぱり新しい子?」


ドアを開けて顔を出したのは、褐色の肌でピンクの髪を逆立てた、少々目つきのきつい女性だった。しかもその瞳は、爬虫類を思わせる縦長の瞳孔を持つ金色と、見るからにイケイケと言うかオラオラと言うか、他者を威圧して自分の存在をアピールしようという感じに見えた。石脇佑香いしわきゆうかが最も苦手とするタイプだ。


だから、小さなアーシェスの後ろでは隠れることも出来ないが、彼女は少しでも目の前の怖そうな人の視線から逃れようと身を縮めるしかできなかったのだった。


そんな石脇佑香に対してアーシェスはにこやかに言った。


「彼女はメジェレナ・クヒナ・ボルクバレリヒン。あなたから見たら怖そうに見えるかもしれないけど、これ、彼女のすっぴんだから。二千年ほど引きこもりしててようやく十年程前からショップ店員として働きだしたの」


『…え…?』


一瞬、意味が分からなかった。


『この怖そうな人が引きこもり…?。しかも二千年って…』


「もう、止めてよ、アーシェス。あんただって一万年以上ウジウジしてたって聞いてるよ。人のこと言えないでしょ」


困ったような顔をして頭を掻くその様子からは、確かに自分を威圧しようとするような気配は伝わってこない。しかもよく見れば、自分と視線を合わせようとしてない。こちらの目を見てるんじゃなくて、口の辺りを見てるのが分かる。


『あれ…?。この人もしかして私と同じ…。相手の目を見るのが怖い…?』


石脇佑香が感じたことはまさにその通りだった。メジェレナは本当は臆病な性格で人見知りだった。彼女の外見はあくまで彼女の種族の一般的な特徴でしかなく、肌の色が黒いとか白いとかそういうレベルの話なのだ。


冷静に相手を観察すれば、外見から受ける第一印象とは違うものが見えてくることもある。石脇佑香はこれまでそういうことを教わってこなかった。だから勝手に、他人は自分より強くて乱暴で横柄で怖いと思い込んでいたのである。


相手も人間だ。能力にそれほど極端な差はない。そしてそれなりに弱い部分も持ち悩みもある。人間とはそういうものだ。無闇に自分を卑下する必要などないのだ。


今回の件だけで石脇佑香がそれを理解することはないだろう。だが、それに気付くきっかけにはなったとは思われた。


「初めまして。よろしくね、え、と…?」


メジェレナが口ごもってようやく気付いた。まだ名乗ってすらなかったことに。


「石脇佑香です。よろしくお願いします」


自ら名乗れたこの時点から、彼女のここでの生活が始まったと言っていいのかも知れなかった。



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