五日目。そろそろ実際に一人暮らしが始まります
四日目の夜も、アーシェスは一緒に眠ってくれた。ただ、もうそろそろ一人でも大丈夫かなとユウカ自身が感じ始めていた。
翌日。五日目。今日は仕事が四日目だから、明日明後日は休みになるはずだった。朝の用意を済まし、ユウカは仕事に出た。途中、
「もうだいぶ慣れた気がします。アーシェスさんは家は大丈夫なんですか?」
それは、遠回しに『一人でも大丈夫です』と言っているのだとアーシェスにも分かった。
「そうね。そろそろ帰らなくちゃね。旦那も待ってるだろうし」
『…ファッ!?』
「だ、だ、旦那さん!?」
さすがにこれにはユウカも度肝を抜かれた。『旦那がいる』。つまり、アーシェスは結婚していたということだ。確かに見た目は幼女でも実年齢は二百万歳。大人どころかもはや人外と言っていい年齢である。地球人の大人など鼻で笑ってしまえるような経験を重ねてきてる筈なのだから結婚していても何ら不思議はないはずなのだが、やはり見た目とのギャップに頭が混乱してしまう。
「そうだよ。結婚してもう百万年かな」
『ひゃ、百万年…!?』
驚くのを通り越してもはや意味が分からなかった。地球人が『永遠の愛』とか言ってもそれは生きてる間だけの話である。せいぜい百年かそこらが限度だ。しかも実際にそんなものが成立する例はむしろ少数派だろう。永遠の愛を誓いつつ数年後には別れてしまう例など掃いて捨てるほどある。それなのに百万年も結婚生活を維持できるなど、一体どんな相手と結婚すればそんなことができるのだろうか。
「今度また機会があったら紹介してあげるよ。でもあんまり期待しないでね。ホントに普通の頼りなさそうなお兄ちゃんだから」
『お兄ちゃん…』
その言葉を聞いて、ユウカの頭に優しそうなお兄さんに甘える幼い妹という光景が浮かんだ。しかもその二人が熱っぽい表情で見つめ合い熱いキスを交わしそして…。
『うわ~っ!、うわ~っ!!』
思わずその先を想像してしまいそうになって慌ててそれを振り払った。顔がものすごく熱くなってきて胸が激しく鳴った。両手で自分の頬を覆って、耳まで真っ赤になっていた。その様子で何を想像してるのかバレバレだったが、アーシェスはちょっと照れ臭そうに笑っただけで何も言わずにいてくれた。
奴隷だった頃に受けた虐待により子供が産めない体となったアーシェスに実の子供はいない。夫も彼女にそれを期待してはいない。しかし彼女には、ほとんど無数とも言えるほどの<子供>がいる。そう、ユウカのように彼女が親身になって世話をしてきた人間たちだ。中には何十年と一緒に暮らし、本当に親子のようになった者もいる。赤ん坊だって何人も育てた。
幼い子供にしか見えないその姿に反して、アーシェスは超ベテランの<お母さん>でもあったのだった。




