アーシェスの想い
アーシェスもそうだったが、ヘルミにもとても自分には理解できそうもない辛い過去があったことに、ユウカは涙が抑えられなかった。そんな彼女を見て、アーシェスがふわっと微笑んだ。
「ユウカは本当に優しいね」
そう言われて、ユウカは気恥ずかしくなって顔を伏せてしまった。でも、自分なんかが優しいっていったら、アーシェスはそれこそ女神とかそのレベルだと思った。自分のこともヘルミのこともこんなに心を砕いて受け止めようとしてくれて、どうしたらそんな風になれるのかっていうのが不思議にさえ思えた。
そしてどうして、アーシェスもヘルミも、そんなに辛い目に遭わなくちゃいけなかったのかが分からなくて、やっぱり涙が零れた。
アーシェスは言う。
「ユウカ…、辛いことや苦しいことっていうのは、いつだってどこにだってあるんだよ。もちろんここにだってそういうことはある。死ぬことはなくても、片思いをしたり失恋したり誰かとケンカになったり裏切ったり裏切られたりなんてことは普通にあるの。だけど最後の瞬間に、自分は生まれてきて良かったと思えたら、どんな辛かったことも苦しかったことも報われると思う。私は二百万年の間にそういう人をたくさん見てきた。みんなとてもいい顔をしてた。いつかは私もそうなりたいって思ってるんだ」
柔らかく、穏やかにそう話すアーシェスに、ユウカは自分が落ち着くのを感じていた。もしかしたらヘルミもいつかはアーシェスみたいになれるのかもしれないと考えたら、少し気が楽になったように思えた。
だがユウカは、この時、気付いていなかった。アーシェスの語った内容の不可解な部分に。死なないはずのここで何故『最後の瞬間』というものがあるのかということに。
彼女がそれに気付くには、まだ時間があるだろう。その間、ユウカはただここでの生活を楽しめばいい。そうして心の余裕を作った上で、その事実を受けとめられるだけの器を作った上で、改めてそれに向き合えばいいだろう。いずれは来る別れだとしても、そんなに急ぐほどのことではない。アーシェス自身、ユウカとヘルミのことは気がかりだった。既に後任は決まっているが、ちゃんと見届けてからその時を迎えたかった。
二百万年。普通の人間にとっては気の遠くなるような長い時間、たくさんの人間を見守ってきたアーシェスは、今、とても満たされていたのだった。
ただその前に、この二人のことはちゃんとしてあげたかったのだ。でないと、ゆっくり休めそうもなかったから。




