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リルケ・ニルキア、商品管理担当

小さな女性から慣習や価値観の違いからくる細かな注意点についてアドバイスを受けたユウカだったが、実を言うと女性の言っていたことは現時点では既にほとんど気にする必要もないほど廃れた慣習だった。だからアーシェスも、ユウカがついつい頭を下げるのを何度も見ながらもこれといって忠告をしなかったのである。


ただ、この女性が来た当時にはまだそういうものが残っていたこともあり、少々お節介ながらも注意してくれたのだろう。


女性に教わった通りに歩いて、ハルマが店長を務めるリーノ書房に辿り着き、「おはようございます」と挨拶をして、そのまま奥の扉からバックヤードへと向かった。


「おはようございます」


そう応えてくれたタミネルはやはり今日も冷淡な瞳を眼鏡の奥から光らせている感じだったが、それでも昨日に比べれば緊張感はいくらか和らいだように感じた。慣れと、本質的には怖い人じゃないということが分かったからかも知れない。


昨日と同じように簡潔に丁寧に改めて仕事の手順を説明してくれているのを聞いていると、そこに、


「おはよ~」


と明るく気楽な感じで挨拶をしながらバックヤードに入ってきた者がいた。


「お?、新しい子?。あたし、リルケ・ニルキア。リルって呼んで。よろしくね」


リルと名乗ったその女性は、タミネルとは正反対の印象を持たせる人物だった。年齢はよく分からないが陽気で気さくで朗らかで人懐っこい感じで、緑がかった肌とややピンク寄りの赤い瞳が目に付いた。ユウカは反射的に頭を下げそうになって、しかし道を教えてくれた小さな女性の言葉が頭をよぎって、ややぎこちない感じではあったが、


「おはようございます。石脇佑香いしわきゆうかです。ユウカって呼んでください」


となんとか挨拶をした。その様子を見たリルが、


「お?、ユウカも頭下げるタイプの挨拶の人なんだね。さては頭下げると服従の意味になるとか言われたのかな?。確かにそういうのもたま~にいるけど、そんなにガッチガチに気にしなくても大丈夫だよ」


と、笑いながら言った。さっき言われたことと違ってたため、ユウカは少し混乱して、思わず助けを求めるようにタミネルの方を見てしまった。するとタミネルが、やはり冷静に事務的に応えてくれた。


「リルの言う通りですね。かつてはそういうこともあったようですが、今ではそれほど神経質になる必要はないでしょう。しかし、あなたのように頭を下げる習慣がある種族の方が少ないことも事実ですので、多くの場合は自然とやらなくなるようです。ですが、互いの習慣についてはあまり口出ししないこともここでの暗黙のルールです。あなたがそれを続けたとしても非難されるべきことではありません」


丁寧に言ってくれたことで安心できたユウカだったが、やはり多くの価値観が混在する場所ならでは難しさも改めて感じていたのであった。


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