神話生物もたまにうろついてます
アパートに戻ってきた三人は、ユウカの部屋に集まった。そして、年頃の女の子がよくするような他愛のないおしゃべりを楽しんだ。それはユウカにとって、ほとんど初めてと言ってもいい経験だった。内向的で自分から積極的に話しかけることが出来なかった彼女は、そういう相手がいなかったのだ。なのに、アーシェスやメジェレナが相手だと、素直に喋れた。それが不思議だった。
特に彼女が驚いたのは、自分が好きだったクトゥルー神話の話をした時、それがアーシェスやメジェレナにも通じた事だった。彼女にとっては大好きなホラーだったとはいえ、やはり頭のどこかではただの作り話と思っていたものが、他の惑星や宇宙でも同じように伝わっていたことに驚かされたのだ。いや、それどころか、この<書庫>の中に実際にいるのだと言われてしまっては、テンションが上がらずにはいられなかった。
考えてみれば当然か。実在していないのであればいる筈がないが、実在しているのであれば、それほどの存在がここにいない方が不自然でもある。なにしろ、同じく邪神であるクォ=ヨ=ムイがこのアパートに住んでいるのだ。となれば、あの物語に出てくる邪神群も、あの感じでどこかに住んでいたりするということだ。
しかし、そのことに気付いたユウカは、途端に複雑な気分になった。
『ニャル様があんな感じだったらどうしよう…』
クォ=ヨ=ムイの姿を思い浮かべつつ、もし同じようにひどく身近で俗っぽい風体だったらがっかりしてしまいそうだと思った。だから、それを知りたいような、知りたくないような、ひどく複雑な気分にさせられていた。
「やっぱりニャル様もクォ=ヨ=ムイさんみたいな感じなんですかね~…」
思わずそう問い掛けたユウカに、アーシェスは苦笑いを浮かべながら答えた。
「どうかな。私もニャルラトホテプには会ったことないから分かんない。ショゴスやビヤーキー、ナイトゴーント辺りだとたまにうろついてたりするんだけどね」
その言葉にユウカは思わず食いついた。
「ええ!?、み、見たいかも!」
ユウカが初めて見せる積極性に相貌を崩しながら、アーシェスはさらに答えた。
「誰かに使役されてるわけでもないホントの野良だから、探そうと思っても難しいけど、運が良かったら会えると思うよ。何十年かに一回だけどね」
「やっぱりそんな感じなんですね~…」
などとユウカはがっかりしていたが、ここでは何十年程度の時間など、有って無いようなものである。彼女がその辺りを実感できるまでは、まだまだ時間が必要なようであった。




