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それぞれの想い

「ごちそうさま、アーシェス」


アイアンブルーム亭を出てしばらく歩いたところで、メジェレナがアーシェスにそう言った。回鍋肉の代金五百ダールをアーシェスに出してもらったからである。三人で計千五百ダールが、先程の回鍋肉の値段だった。ちなみにライスは回鍋肉についてくる。おかわり自由。実にリーズナブルと言えた。


食べ切れずにタッパーに入れてもらった残りを持ち、ユウカも、お腹だけでなくあの気持ちいい空間に胸までいっぱいになった気がした。本来ならああいうのは苦手だったはずなのだが、ここでは苦にならなかった。


アーシェスが言う。


「ラフタスとアーキもすごく辛いことがあってここに来たんだけどさ。今じゃ見ての通り幸せいっぱいなの。ここでは、自分の気持ちの持ちようで幸せになれるんだ。もちろん辛いことだってあるよ。だけどそれ以上に幸せになれるの。ユウカも幸せになったらいいよ」


今までにも、そういうことを言う人間はたくさん見てきた。テレビの向こうにはそれこそいくらでもいた。だけどユウカにとってそんな言葉は、いつだって薄っぺらで、たまたま上手くいっただけの人間の綺麗事だと思っていた。なにしろ、自分の周りには、両親を始めとして他人を傷付けるのが当たり前だと思ってるような人間が無数にいて、少しだけそうじゃないかも知れないと思える人間なんて部活の中にしかいなかったからだ。自分は一生、他人の害意に怯えて小さく身を縮めて生きるしかないんだと思っていた。


なのに、ここでは逆だった。害意を持っていそうな人の方が少なく感じられた。それがどうしてなのかはまだ分からないけれど、でも確かにそう感じられていた。そしてまた、ここでなら生きていけるかもっていう気になれた。


そんな風に感じているユウカを、アーシェスは穏やかに微笑みながら見ていた。何故ならそれこそが彼女の喜びであり、エルダーとしての役目だったからだ。彼女もまた、ユウカによって救われていたのである。


アーシェスだけではない。メジェレナにとっても、ユウカが穏やかな気持ちになれている様子が救いであった。自分と同じように臆病で内向的で他人が怖いユウカでさえこんな表情ができるのだから、自分がいかに恵まれた環境にいるのかが改めて実感できて安心させられた。自分の気持ちだけでは不安だったのだ。ただの勘違いなのではないか、単に幸せだと思い込もうとしてるだけなのではないか。そんなことがいろいろと頭を巡ってしまうのだ。これは彼女の性分なので、他人がとやかく言ってもどうしようもないものだった。


そして、こうしてユウカとメジェレナを引き合わせることが出来たことを、アーシェスは安堵していたのだった。


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