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お腹いっぱい胸いっぱい

思った以上には食べられた気もするが、それでも結局は残ってしまった。三人ともこれ以上は食べられそうになかった。ユウカ自身、こんなに思い切り食べた経験はなかった気がしていた。あまり食べようとすると食費がかさむことを嫌った両親に「まだ食うのかよ!?」と怒られるので、とりあえず出された分で満足するクセがついていた。が、今回は出された量が違ってた。


「じゃ、残りは持って帰って明日にでも食べればいいよ」


アーシェスにそう言われて、ユウカは頷いた。


「よっしゃ、じゃあタッパーに入れてあげるよ。本来なら一個百ダール(=約百円)だけど、今日はうちのおごりだ。持ってきな」


ニレアラフタスが満面の笑みを浮かべて残った回鍋肉をタッパーに詰めてくれていた。するとユウカが、何かを言いたげな顔でニレアラフタスを見ていた。それに気付いたアーシェスが、


「ラフタス、今日はユウカが初めてのお給金で初めて自分でお金を出して食べるために来たの。そういうわけだからさ」


そのアーシェスの言葉に、ニレアラフタスが困ったような顔をして言った。


「え~?、それじゃルール違反じゃん」


そう、ここでは来たばかりの人間には自分のできる範囲で歓待するというのが暗黙のルールとして存在する。それは他ならぬアーシェスが告げたものだ。とは言え決して義務ではないしそうしなかったからと言って何か罰則がある訳でもないのだが、性分としてニレアラフタスにはいささか承服しがたい提案だった。


が、初めての給金で初めての食事というのも確かに特別感のあるものだというのも理解できなくはない。そこでニレアラフタスは、


「う~ん、そうだな。じゃあ回鍋肉のお代はいただくとして、タッパー代だけうちのおごりってことでどう?」


と、ユウカに持ち掛けた。ユウカも思わず「ありがとうございます」と頭を下げた。


そして結局、回鍋肉の代金五百ダール(=約五百円)を払い、「ごちそうさま」と再び頭を下げて店を出た。


「次こそおごらせてほしいからさ、また来てよ」


店の前まで出て、ニレアラフタスが人懐っこい笑顔を浮かべながら手を振ってくれた。


ユウカはそれに対して何度も頭を下げながら、アーシェスの後について歩いて行った。角を曲がったユウカたちの姿が見えなくなると、ニレアラフタスは相貌を崩して、


「また随分といい子がきたもんだね」


と嬉しそうに呟いて、店に戻っていった。そしてユウカも、


『ラフタスさんとアーキさんか…。なんだかいい感じの御夫婦だったな』


と、明るくて元気なニレアラフタスと、寡黙だが真面目で職人っぽいネルアーキというその組み合わせがいかにもながらやはり気持ちいい感じのその姿に、胸が温かくなるのを覚えたのだった。


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