アイアンブルーム亭一番人気、怒涛の回鍋肉
「あいよ、これがうち、アイアンブルーム亭の一番人気、回鍋肉だ!」
そう言ってニレアラフタスがユウカたちのテーブルに置いたのは、大皿に山と積まれた回鍋肉だった。と言うか、少女二人と女性一人で食べるには明らかに多すぎという量だった。マニ辺りなら食べ切りそうかなとも思えなくもないが。
「食べ切れなかったらお持ち帰りもOKだよ。タッパーは別料金だけどね」
ああなるほど。それならまあ合理的ではあると言えるだろうか。
「い、いただきます」
先に「いただきます」と食べ始めたアーシェスとメジェレナに続き、呆気にとられながらも、白ご飯を片手に回鍋肉を小皿に取り、ユウカも食べ始めた。
「あ、美味しい」
一口頬張ると、いかにもご飯が進みそうな甘辛いしっかりした味付けが口の中に広がり、食欲がそそられた。実はけっこう空腹だったこともあり、彼女は夢中になってそれを食べた。
「お、お嬢ちゃん、いい食べっぷりだねえ!。こりゃあ元気な赤ちゃんを産みそうだ!」
ニッカボッカを身に着けた、いかにも昔のドラマ辺りに出てきそうな仕事帰りの大工といった風情の酔客が、嬉しそうに大声で言った。とは言えそれは明らかにセクハラ発言でもある。ユウカは顔を真っ赤にしてしまい、俯いて箸が止まってしまった。それを見たニレアラフタスが、
「くぉら!、ゲンザー!。女の子からかうんじゃないっていつも言ってるだろ!。しまいに叩き出すよ!!」
角でも生やしそうなニレアラフタスの剣幕に、ゲンザーと呼ばれた酔客の男は頭を掻きながら、
「いやあ、ラフタスに怒られちまったよ、失敬失敬」
とさほど悪びれた感じもしないながらもユウカに向かって頭を下げた。
本当にこんな、ドラマのような世界があるとはユウカは知らなかった。自分には縁の無いものだと思ってた。なるべく他人と関わらないようにして社会の片隅でひっそりと息をひそめて生きていくのだと思っていた。それがこんな、やけに人間関係が濃密な世界に突然放り出されて、なのにそれが思ったほど苦痛じゃなかった。気恥ずかしくて自分からは積極的に話しかけるのは無理だけど、話しかけられるのはそんなに嫌じゃないと感じていた。もといた世界では決してなかったことだった。
それはここの人間達が、彼女を受け入れてくれているのが分かるからだろう。ここの人間達は、無闇に他者を排除し攻撃する必要がないのだ。ただそこにいるものとして、同じ世界に生きるものとして、素直に受け止めているだけなのだ。
山盛りの回鍋肉を、アーシェスやメジェレナと共に食べながら、ユウカは少しずつこの世界に馴染み始めている自分を感じずにはいられないのだった。




