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時間を使い切ることは出来ません。ほぼ無限ですから

この社会の現実に触れるにはまだ少々早かったユウカは、特に深いことを気にするでもなく迎えに来たアーシェスに伴われてアパートへの帰路に就いた。


するとアパートの前で、マニとばったり出くわした。


「あら、ユウカちゃん、お帰り。もしかしてお仕事に行ってたの?」


作業服に包まれた、まるで肉の壁のごときムッキムキの筋肉質なその姿とは全く結びつかない女性らしい声と口調と仕草でそう聞かれて、ユウカは「は、はい」と戸惑いながら返事をするしかできなかった。


マニに手を振りながら見送られつつ階段をのぼり、二階の自分の部屋へと戻ったユウカは、「ふう…」と、つい溜息をもらしていた。


「お疲れ様。よく頑張ったね」


アーシェスにそう声を掛けられて、ユウカは思わず背筋を伸ばした。そんな彼女を見て、アーシェスは、


「もう自分の部屋なんだから、そんな緊張しなくていいのよ」


とクスクスと笑った。ユウカもつられて「エヘヘ」と苦笑いした。


それからテーブルを挟んで座って、お給金の入った封筒をその上に置いてユウカは言った。


「お金は少しずつ返しますから」


アーシェスに買ってもらった日用品の数々の代金のことだった。だがそんな彼女に対してアーシェスはきっぱりと言った。


「ダメよ。これはここのルールなの。初めて来た人に対しては自分に出来ることをするっていうのがね。私はお金に余裕があるからそうしただけ。それ以外に今こうしてあなたと一緒にいるのは、それは私がエルダーだから。これは私の仕事なの。これで私はお給金をもらってるの。なにも遠慮することはないんだよ」


自分が余計なことを言ってしまったと思って、ユウカは「ごめんなさい」としょげかえってしまった。それを見たアーシェスはまたふわっと包み込むような笑顔を見せた。


「いいよ。ゆっくりとここに慣れていったらいいから。誰もそれを強要しないし、急がせもしない。もしそんな人がいても気にしなくていいわ。それはその人がせっかちな性分っていうだけだから。私たちには時間があるの。何も急ぐ必要はないんだよ」


そう、今のユウカには、無限にも等しい時間がある。地球に暮らしていた頃には多くても精々百年程度だった彼女の時間は、もうまったく使いきれないものになってしまっているのだ。とは言え、それを思い知らされるのは、もっとずっと後になるだろう。千年か万年か、彼女が生きることに飽きるまでいくらでも使えばいい。


アーシェスは二百万年生きた。それを目指したって誰もケチをつけたりはしないのだから。


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