初めてのお給金
「よく頑張りましたね。はい、これが今日の分のお給金です。半日分ですけど、ここでの最初のお給金ですね」
夕方。そろそろ日が暮れ始めた頃、仕事の終了を告げられたユウカは、ハルマからそう言って封筒を渡された。
「あ、ありがとうございます」
決して大きな声ではなかったが、ユウカは確かにそう応えて頭を下げた。それが、この時点での彼女にできる精一杯の事だった。
「じゃ、明日は朝の9時からお願いしますね」
そう言われてユウカはもう一度頭を下げて店を後にした。ここでの仕事は、四日働いて二日休みというシフトだった。ちなみに、<書庫>の中では<曜日>という概念はない。ここを作った種族にそういう概念がなかったためにそうなっているのだ。これも慣れていくしかないだろう。また、<月>という概念もない。
だがその辺りは、細かいことを気にせず毎日を凡庸に送ることを心掛ければ、慣れるのは実はそれほど難しいことでもなかった。ここでは制度上、明文化された上で保証されている<権利>というものはなかった。その代わり<義務>もない。勤労の義務もなければ納税の義務もない。ぐうたらにだらしなく生きようと思えば生きられる社会なのだ。
が、意外なことに本当にそういうふうにして生きてる人間は、全体から見れば0.02%ほどしかいない。暮らしている人数が多いからいくら割合が低くても数そのものは多くなるが、そういう人間を養うために誰かが代わりに何かを負担しているわけでもないので、不公平感は生じなかった。何しろ飢えても死なないのだ。働く気がなければ放っておけばいい。放っておいてもどうせ死なない。本人がただずっと飢えに苦しむだけなのだ。で、そのうち、それに耐え切れなくなり何か仕事をし始めるのである。
泥棒や強盗をする必要はない。施しを受けたいと願い出れば必ず誰かがそれに応えてくれる。しかも、死なないのだから脅しもさほど効果がない。また、老いず朽ちずの状態で延々と怠惰な生活を続けるということは、実は結構な苦行でもある。いつか終わりがあると思えばこそそこまでどうにか楽をしたいと思うのであって、大抵の者は百年もそれを続けると飽きてしまう。そしてやはり、無理のない範囲で働き出すのだ。適度な刺激を得るために。
仕事もまた実に多種多様で、物質社会ではおよそ成立しないようなただの児戯のようなものでも仕事として成立する。通貨はただ物品やサービスを手に入れるための単なる道具でしかなく、それ以上の価値もそれ以外の価値もなかった。
この社会は、そういう形で成り立っていたのだった。




