報告、連絡、相談。ホウ・レン・ソウ
タミネルの口調が少し厳しい感じだったように思えて、ユウカは思わずビクリと体をすくませた。
「あ…、あの…」
声を出そうとはするのだが実際には声にならず、おろおろと目を泳がせるだけになってしまった。
そんなユウカを前にタミネルは黙ったままこちらを見ている。やがて少し頭の中が整理され始めてようやく、
「こ、これ、紙に書かれてるのとちょっと違うみたいです…」
と説明することができた。するとタミネルが目録を覗き込み、呟くように言ったのだった。
「これは品物が違いますね。こちらが発注を掛けたものは『思い出の川を越えたら』です。でも届いたのは『思い出の川を越えて』。まったく別の品物です。正しい品物を送ってもらわないといけません」
淡々とした感じで『思い出の川を越えて』というタイトルの本を手に取り、それを別の棚に置きつつ、バックヤードの隅に置かれた机の引き出しから紙を一枚取り出してきて、ユウカに見せた。それは『報告書』と書かれた紙だった。
「こういうことは時々あります。今回はたまたま問屋側のミスでしたが、こちら側のミスの場合もありますので、この紙に気付いた内容を書いた上で必ず私に報告してください。何か気付いたことがあれば、報告、連絡、相談です。ホウ・レン・ソウと覚えてください。あなたはまだこの仕事の全体を把握できていません。判断は私の仕事です。あなたの役目ではありません」
淡々とはしているが、良く聞けば特に怒っている感じはなかった。タミネルはただ、ユウカに説明しているだけなのだ。アパートの住人には朗らかな感じの人が多かったが、ポルネリッカやヘルミのように必ずしもそうでない者もいた。これもまた、それと同じことなのである。しかし、タミネルはポルネリッカやヘルミのように面倒臭がっていたり攻撃的だったりしている訳でもない。単にひどく事務的なだけだ。しかも、事務的ではあるが丁寧でもある。決しておざなりな訳ではない。
報告書の書き方を丁寧に説明し、ユウカにそれを書かせて受け取りつつ、
「では、続きをお願いします」
静かにそう言って自分の持ち場に戻っていった。その背中を見送りながら、
『怖い人じゃないみたい…』
と、ユウカは思った。そしてそれは事実だった。タミネルもまた、辛い過去を背負っており、ただ今はまだうまく笑顔が作れなかっただけなのであった。
そう。人にはそれぞれ事情というものがある。それを頭に入れなければ、人間関係など元より上手くいくはずがないのだ。自分が上手く人と関われないという事情を考慮してもらいたいのなら、自分もまた、他人の事情を考慮しなければいけないのである。




