タミネル・フミタニア、商品管理責任者
「この子はイシワキ・ユウカさん。今日から研修という形でここで働いてもらうことになりました」
これを断って次の心当たりを見たほうがいいかなと思えるほど仕事というものを肌で理解してなかったユウカは、物は試しととりあえずここで働くことに決めたのだった。アーシェスとはそこで一旦別れ、そしてハルマにバックヤードに連れてこられて、眼鏡をかけた知的な感じのする、でも少し鋭い視線を向けてくる若い女性に紹介された。
「彼女はここの責任者で、タミネル・フミタニア。彼女の指示に従ってもらえればいいからね」
ユウカの方に向き直ったハルマが、穏やかに笑いながらそう言った。そのおかげでいくらかはホッとできたが、彼が店の方に戻ると、ちょっと怖そうな印象のあるタミネルを前に体が固まるのを感じていた。
「イシワキ・ユウカさん。それでは早速、こちらの箱の中の商品の検品からお願いします。この目録と実際に入っている商品が一致するかを確認するのがあなたの仕事です。もし分からないことがあればすぐにおっしゃってください。決して、分からないままで自分で判断しないようにお願いします」
と、タミネルの言葉は淡々としていて事務的で冷淡な印象があった。
「は、はい…!」
と返事はしたものの、緊張で背中に冷や汗が浮かび上がるのを感じた。そんな彼女に対してタミネルはあくまで冷静だった。
「箱の中から商品を出して、こちらの棚に仮置きしながら、目録に描かれたタイトルや数量と一致するかを確認していく作業です。今日はそれほど忙しくありませんので急がなくても結構ですが、確実にお願いします」
タミネル自身で手本を見せつつの簡潔な説明だったために、要領はすぐに理解できた。そこで早速、ユウカも言われた通りにやってみる。なるほど、文字は見たことの無いものだったが意味や読み方は頭に入ってくるために、決して難しい作業ではなかった。これなら自分にも無理なくできそうだと思った。
だが、しばらく作業を続けていると、不意にユウカの手が止まった。彼女が手に取った本のタイトルは『思い出の川を越えて』となっていたのだが、目録の方では『思い出の川を越えたら』となっていたのだ。ただの打ち間違いの様にも思える些細な違いだったために気にしなくてもいいのかなと一瞬、思ってしまった。だが、本当にそれでいいのかと思い直して迷っている彼女に、タミネルが声を掛けたのだった。
「イシワキ・ユウカさん、分からないことがあったらおっしゃってくださいと申し上げたはずですよ」




