それぞれの日常
買い物を終えてアパートに戻ると、キリオがちょうど玄関を出るところだった。
「やあ、ユウカ。今日も可愛いね」
当たり前のように挨拶としてそういう言葉が出てくるキリオに、ユウカは苦笑いしか返せなかった。ヌラッカのことが頭に浮かんだからというのもある。
「今日は仕事が入ってるんだ。うちのマネージャーが優秀で大変さ。僕はもう少し抑えたいんだけどね」
そう言いながらキリオは自転車を出してきてそれに乗り込み、颯爽と走り去ってしまった。そういうところだけを見ると確かに恰好良くてさすがにモデルだなとは思わされた。
「ヌラッカは歯科技師だから先に出勤したのね」
アーシェスが補足するように言葉に出した。そう言われれば昨日、そんなことを聞いた覚えがある。などと考えながら荷物を持って自分の部屋に向かった。
「あ、おはようございます」
部屋に戻る寸前、六号室のドアが開いて中からクォ=ヨ=ムイが出て来た。昨日とは別のものだがやはりグレー系のビジネススーツに身を包みつつも、その全体から漂ってくるのは何故か夜の雰囲気だった。もう少し派手な感じのスーツだったりしたら完全に水商売の女性っぽさがある。気怠そうな眠そうな表情と、微妙に体が常に揺れていて、相手を誘っているかのような隙を感じさせるからだろうか。
「おはよ…」
ポツリと呟くように一言だけ返し、仕事にでも行くのか階段を下りて行ってしまった。だがユウカはそこで気が付いた。
『そう言えば、クォ=ヨ=ムイさんの仕事って聞いてなかった気がする…』
それを察したアーシェスが言った。
「彼女は仕事はしてないわ。あの恰好は単に習慣でそうしてるだけみたい。仕事しなくても何でも自分で作り出せるし。ただ、仕事じゃないけどいろいろと付き合いはあるみたいで、ああしてしょっちゅう出掛けて行くのよね」
その言葉にも気になるところがあった。『付き合い』とは何だろう…?。それにもアーシェスは応えてくれた。こういう時に相手が何を考えてるかというのが、その豊富過ぎる経験から分かってしまうのだろう。
「基本的には、同じ邪神とかと集まってるみたい。そこで、勝負とかもしてるらしいのよね」
「え?、勝負?」とユウカは驚いた顔でアーシェスを見た。さすがにラブクラフト全集なども読んでるだけあって、邪神同士で勝負とか不穏さしか感じなかったからだ。が、アーシェスはやれやれという感じで肩を竦めただけだった。
「どんなに派手にやり合ったって、精々殴ったり蹴ったり程度の威力しか再現されないから、ただのレクリエーションみたいなものだけどね」




